「定年待合室」江波戸哲夫著
高年齢者雇用安定法の改正により、各企業は2025年4月から「65歳まで定年年齢の引き上げ」「希望者全員を対象にした65歳までの継続雇用制度を導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置が義務付けられる。また来年4月からは70歳までの就業機会確保が努力義務となる、という具合に定年延長が促進される一方、会社員生活に見切りをつけて別の生き方を模索する人たちもいる。
【あらすじ】大手百貨店で同期の出世頭として腕を振るっていた大和田は、専務の逆鱗に触れコースから外れてしまう。定年待合室ともいうべき閑職に追いやられた大和田だが、妻ががんの宣告を受けたのを機に、早期退職制度に応募して妻の介護にいそしむが、2年後、妻は亡くなる。
しばらく虚脱状態に陥っていたが、久しぶりに行きつけのスナックに顔を出すと、ママから相談を持ちかけられる。古巣の百貨店の後輩が、大口の取引が急にキャンセルになり、いくら理由を聞いても教えてもらえないという。
大和田は昔取ったきねづかとばかりにその問題を見事に解決。すると、社員との関係がうまくいかない新任店長、物件は問題ないはずなのだがなぜかマンションが売れずに困っている不動産屋からも相談を持ち込まれ、さらには、大手スーパーが撤退したために買い物難民となった住宅地からの相談にもひと肌脱ぐことに。大和田は相談ごとに、有能なのに会社から評価されずに鬱屈している知り合いに声をかけながら、持ち込まれた難題を次々と解決していく。
【読みどころ】大和田の周囲に集まった男たちは、大和田と一緒に働くことで忘れていた自信を取り戻していく。仕事とは何かという本質が見えてくる、男たちの再生の物語である。<石>
(潮出版社 880円+税)