中国ウラオモテ
「中国法」小口彦太著
最後のあがきを続けるトランプ米大統領を尻目に覇権拡大への野望を隠さない中国。そのオモテとウラを読む。
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一党独裁の中国にはまともな法制度など存在してないはず。そんな感じを抱く日本人は少なくない。しかし中国法を専門とする早大名誉教授の著者は私法(民法)領域での数々の判例を調べて「日本と同様、法は確実に機能」すると断言する。
他方、公法(憲法や刑法)の領域となると話の次元が変わる。中国の裁判所に当たる「法院」やそこに詰める「法員」は、厳密には「裁判所」や「裁判官」とは異なるとも指摘する。だが、それは中国が「遅れて」いるからではない。法の運用や社会との関係において、中国や日本では法の適用に「行政」の側面がある。それに対してイギリスでは司法と行政の境界が明確。つまり歴史的ないきさつを含む解釈や運用の側面が重要なのだ。
特に序章の「尖閣諸島国有化問題」は特筆に値する。日本政府が魚釣島、南小島、北小島三島を埼玉県在住の地権者から買い取って国有化したものの、中国との間で主権問題が発生。実はこの買収計画は石原慎太郎東京都知事(当時)の暴走を警戒した外務省が主導したらしいのだが、その判断に中国の法制度への誤解があったと指摘する。この章だけでも丹念に読む価値がある、ひさしぶりの中国関連の優良書。
(集英社 860円+税)
「中国、科学技術覇権への野望」倉澤治雄著
まるでケネディ時代のアメリカのように宇宙開発に邁進するのが習近平時代の中国。また覇権拡大の切り札となる「一帯一路」計画ではフランスから導入した原子炉に改良を重ね、自慢の「華龍1号」として国産化。これをいまイギリスに売り込んでいるさなかだ。英ウェールズ地方から原発撤退を余儀なくされた日立製作所とは対照的なのだ。
そして情報通信分野では、米国が目の敵にするファーウェイが猛烈な一点突破主義で5G開発に先手を打った。元日本テレビ記者で科学ジャーナリストの著者は米中の科学技術力「頂上対決」の模様を生々しくルポしている。
(中央公論新社 860円+税)
「中国コロナの真相」宮崎紀秀著
日本テレビの元中国総局長の著者があとがきで明らかにしているところによれば、中国式のコロナ対策のひとつが「官僚への厳罰」だった。感染が拡大するたびに地元の責任者をクビにする。しかしこうなると地元の官僚は国民の命を守るより、他人に責任をなすりつけることに血道をあげるようになる。
著者はこれが周辺国とのトラブルもかえりみずに勢力拡大をめざす外交姿勢に通じる中国流という。つまり中国が必死で守るのは国民や国家というより「中国共産党」のメンツなのだ。
本書は体制の犠牲になった医師たちや武漢在住の日本人救出計画のいきさつ、コロナ禍の首都と政府のやり口などを余すところなくルポしている。
(新潮社 780円+税)