「私の親鸞」五木寛之著

公開日: 更新日:

 今年89歳になった著者は、年ごとに迷いが深まってきたという。それは親鸞に対しても同じで、勉強するほどにどんどん遠景に退いてしまうような不思議な感覚がある。

 平壌からの引き揚げの際、すさまじい体験をした著者はずっと「許されざる者」という思いを抱きながら生きてきた。それが30歳の頃、「いかなる人といえども、どんなに深い罪を抱いていても救われる」という親鸞の教えに触れ、「この人は自分のことを分かってくれる」という感覚になった。以来、さまざまな形で親鸞という存在を考え続けてきたが、あのとき感じた、温かい手で背中を叩かれたような感覚がない。どこかに温顔の親鸞像はないかと思い続け、ようやく鹿児島の隠れ念仏の里で、かすかにほほ笑んでいるような優しげな表情の親鸞像に出会い、ほっとした──。

 これまで封印してきた過酷な引き揚げの記憶と、親鸞と共に歩んだ半世紀を語った半自伝的親鸞論。親鸞が慕った法然の言葉から、親鸞の「教行信証」は、自分の頭の中にあるあらゆる教養と知識を全部掃き出し、身軽になろうとしたものではないか、という推察のほか、暁烏敏、高光大船、清沢満之らとの出会いまで。親鸞の思想を探る。

(新潮社 1485円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…