「だから殺せなかった」一本木透著
全国紙の社会部記者・一本木は、連載企画でかつて支局勤務時代に記事にした汚職事件の顛末(てんまつ)を告白する。それは一本木の記事によって、事件関係者は自ら命を絶ち、結婚を約束した恋人まで失ってしまった苦い体験だった。
数日後、記事を読んだという人物から一本木宛てに手紙が届く。「ワクチン」と名乗る手紙の主は、世間を騒がす連続通り魔事件の犯人だった。手紙には犯人しか知らない情報も添えられていた。
ワクチンは、手紙で記者なら説諭で自分を改心させてみろと一本木を挑発。そして、今後、定期的に送る声明文を1面に掲載し、翌日に一本木の反論を載せるよう要求。ルールが守られなければ、犠牲者が増えていくと警告する。
新人とは思えぬ筆致で読者を物語世界に引き込む第27回鮎川哲也賞優秀賞受賞作。
(東京創元社 792円)