「漫画サピエンス全史文明の正体編」ユヴァル・ノア・ハラリ原案・脚本、ダヴィッド・ヴァンデルムーレン脚本、ダニエル・カザナヴ漫画、梶山あゆみ訳
我々、ホモ・サピエンスの歴史を独自の視点で見つめ直した世界的ベストセラーのコミック化第2弾。
第1弾で、ホモ・サピエンスが他の「ヒト」を駆逐して唯一生き残り、地球上に広まっていくまでが描かれた。
本書は、その後のサピエンスの運命を決めた中東で起きた約1万2000年前のある出来事から始まる。
その出来事とは「農業革命」だ。
それまで、移動しながら狩猟採集生活をしていたサピエンスの一部が、小麦などの植物の栽培化と動物の家畜化を始める。
人類が狩りや採集で手にし、口にした動植物は何千種とあったが、栽培・家畜化に適しているのはわずか数種類。ゆえにそれらの希少な動植物が暮らす限られた数カ所の土地で農業革命が始まった。
その農業革命がサピエンスに劇的な変化をもたらした。
ここまでは、学校でも必ず習う、周知の事実だが、著者はこの農業革命は、教科書で教わるような夢の出来事ではなかったという。
教科書では、農耕生活への移行によって、移動の手間がなくなり、飢えや病気の心配がなくなり、人口が爆発的に増えたと教わった。
何もかもがいいように思えるが、その内実は、人口が増えたことにより、人々はより多くの食料の栽培が必要となり、過酷な労働に追われることになったという。
農業革命以前は、何十種類もの動植物を食べていたので、ひとつの種が不足しても別の種を集めたり狩ったりすればよかった。しかし、農耕社会では栽培した数種の植物だけに頼ってカロリーを得ていたので、干ばつやイナゴの大群や菌の発生で作物がダメになると村が全滅する恐れさえあったのだ。
さらに、密集して暮らす定住生活は家畜や排泄物が身近にあり、疫病をはじめ、健康にもダメージを与えた。
古代人の骨を調べると、そもそも狩猟採集生活に向いていた身体は、農耕生活によって影響を受けたと思われる関節炎やヘルニアなどの痕跡があったという。
一方で、農耕の始まりとともに争いも増加。近隣のサピエンスに襲われても、土地を守らなければ飢え死にするので戦わなければならなくなったからだ。多くの農耕社会では死者の約4分の1が暴力で命を落としたそうだ。
農耕社会の大規模化とともに、人々を顎で使う指導者や神官など飽食のエリート層が生まれてくる。
やがて、私有財産という概念が生まれ、サピエンスがサピエンスをも所有するようになった。それが奴隷制度や今に続く人種差別やジェンダー問題の根底にあるという。
私有財産の利己的な傾向に拍車がかかると、天候や天災が気になり、誰もが未来を心配するようになった。そうした不安や心配が国家をつくり出し……。
人類の繁栄と進歩の始まりだと思っていた農業革命がもたらした真実を暴く目からウロコの歴史コミック。
(河出書房新社 2640円)