「動物のペニスから学ぶ人生の教訓」E・ウィリンガム著 的場知之訳
「ペニスの話題ほどクリックを集めるものはない」という著者によるサイエンス読本。脊椎動物から節足動物、軟体動物まで、さまざまな生殖器研究の事例を紹介する。
メスのありとあらゆる場所に突き刺すウミウシ。一部のクモは、触肢の皮下注射針のような部分をメスの生殖器に挿入するが、その先端に精子を充填する前からメスに何度も「フェイント」で挿入するという。また2種のムシクイにはほかの鳥は持たない挿入器がある。繁殖期にだけ現れるが、精子を配偶相手の体内に輸送する働きをするので、ペニスだと言って問題ない。
こうした多種多様な挿入器は、物理的に同種の配偶相手を選ぶためのメカニズムとして進化したというのが通説だった。しかし、この「生殖器のフィット」という前提が、どちらかを調べれば事足りるとの思い込みを生み、オスの生殖器研究への偏りを生み出したと指摘する。進化生物学における繁殖の成功は「適者生存」の指標の一つであるが、適者が「もっとも強い者、勝者」と誤解されたことで、あらゆる結果を正当化するのにも使われてきたのだ。
動物たちの交尾行動やその進化をたどりながら、現代にはびこる男根幻想について考察する。
(作品社 2970円)