「アウシュヴィッツのお針子」ルーシー・アドリントン著 宇丹貴代実訳
1942年、スロバキアやハンガリーなどから集められた多くのユダヤ人女性の第1陣がアウシュヴィッツに移送された。入所に当たって服が次々に剥ぎ取られ、暴力や屈辱を受けたあと、運良く生きて働くよう選別された一部の女性たち──スロバキアで人気のファッションサロンを経営していたマルタはその技能のおかげで、ヘス所長の妻専用お針子として働くことに。やがてマルタの腕は他の親衛隊員の妻たちの知るところとなり、ヘス夫人は収容所内にナチスエリート階級のためにファッションサロンを立ち上げる。
マルタはこれを機に囚人の中から助手を採用するよう要請。イレーネ、ブラーハ、カトカら多くの女性を救出する。彼女たちは型紙を起こし、裁断し、装飾し、次々に美しい衣服を作っていく。一方でマルタは、レジスタンス活動をして逃亡計画を立てていく。
アウシュビッツでお針子だったユダヤ人女性たちへの取材をもとに、収容所の秘密のサロンを描き出した衝撃の実話。過酷で死と隣り合わせの日々の中でも友情を育み、収容所の仕組みに通じ生き延びる知恵を得ていく数々のエピソードが胸に迫ってくる。
(河出書房新社 2475円)