「浮世絵猫、おどる!」 熱海Muddy Cat著
熱海駅から歩いて25分、街はずれにある「Muddy Cat」は、「猫に会えるかもしれないバー」。店主夫婦と暮らす3匹の保護猫が、「気が向けば」自宅がある上階から店に顔を出すからだ。
ユニークな柄の3匹の猫たちの写真と面白コメントがSNSで人気を集め、猫目当ての客が多く来店するという。
本書は、地方のストリップ劇場で保護され、その楽屋で育てられたという異色の経歴を持つ店長のオス「てんてん」に、広報担当のミチルと接待係のタビ子の2匹のメス。その3匹の看板猫たちを主人公にしたフォトエッセー。
店主夫婦が縁もゆかりもない熱海でバーを開業したのは2018年の11月末。当初は、客がひとりも来ない日も珍しくなく、店の宣伝のために始めたSNSに載せた1枚のミチルの写真が突然「バズった」という。
猫じゃらしに興奮して立ち上がって体を踊るようにねじって遊ぶミチルの姿が、河鍋暁斎の浮世絵に描かれる「猫又」にそっくりで、写真と浮世絵を並べて投稿したところ話題を呼び、今では全国各地から猫好きなお客さんが店を訪ねてくれるようになった。
その記念すべき1枚をはじめ、看板猫たちの日常を撮った写真が並ぶ。
3匹はどれも白黒猫。店主夫妻がまだ東京で暮らしていた頃に飼い始めたてんてんは、鼻の穴の下にほくろのような黒い「てんてん」があるのが名前の由来。片方の目だけに黒がかかった「髪形」が個性的だ。
生後7カ月で腸を20センチも切除する大手術を受け、大きくなれないかもしれないといわれていたが、今では5キロを超える立派な店長だ。
一方、白の体毛に黒というよりはグレーのぶち模様がお洒落なミチルは、何といっても顔が個性的。目と鼻の周辺に集まった模様がまるで歌舞伎の隈取りのようで、その顔立ちと切れのある動きで、浮世絵猫界のスターとして君臨する。
そして末っ子のタビ子は、足袋をはいているような足先とお腹の一部だけが白い黒猫。野良猫時代が長く年齢も不詳で、保護施設で他の猫とうまくやれず脱走したこともある。一方で3匹の中で一番人懐こく、ときには客の膝に乗って動かないときもあるという。
流木を集めて作ったキャットウオークが張り巡らされた店内で自由奔放に過ごす姿や、疫病退散を願って段ボール箱で作った神社に収まり猫神様となった3匹、バーの看板猫らしくビール瓶(もちろんおもちゃ)を片手に泥酔したミチル、グラビアアイドル並みのセクシーショット、そして北斎の浮世絵を彷彿させるタコのぬいぐるみとのカラミなど。
面白写真撮影の裏話や、3匹の面白エピソードなども紹介。さらにページの合間には3匹がモデルになっているとしか思えない歌川国芳が猫を描いた浮世絵も収録。
猫愛がたっぷり詰まった愛猫家必見のおすすめ本。
(KADOKAWA 1540円)