「残照」本城雅人著
ベテラン騎手の飯倉元春が、410キロという小柄で華奢(きゃしゃ)な競走馬アイウイッシュに騎乗して6年ぶりにGⅠレースで優勝するところから物語は始まる。
不眠や減量の苦労を乗り越えた末の復活劇に仲間は喜びの声をかけてきたものの、そんな元春に嫉妬したのか何者かがネット上で元春を誹謗(ひぼう)中傷していることを知る。犯人は、5年前にレース中の事故で亡くなった元春の後輩である渋瀬祥吾の妻・さやか。事故の原因は元春にあるなどと書き込んでいたため、弁護士を使って発信者情報の開示請求をした結果判明したのだった。
しかし、元春がこれ以上の書き込みをやめてほしいと抗議にいった日の夜、さやかが自宅マンションのベランダから転落死する。警察からあらぬ疑いをかけられるなか、さまざまなトラブルが元春を襲う。果たして事件の真相とは……。
スポーツ紙記者の経歴を持ち、2017年に「ミッドナイト・ジャーナル」で吉川英治文学新人賞を受賞した著者の最新作。現場を知っている元記者ならではの描写力で、競馬のジョッキーの世界を描きながら、主人公が巻き込まれた事件の謎解きにいざなう。
(文藝春秋 1980円)