「愚者の階梯」松井今朝子著

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 舞台は昭和10(1935)年。江戸の狂言作者・桜木治助の末裔で大学講師にして劇評も手掛ける桜木治郎は、ある夜、歌舞伎の殿堂・木挽座の社長室に赴いた。来朝した満州国の溥儀皇帝の前で「勧進帳」を上演したのだが、それが不敬だと難癖をつけにきた男に困り果てた大瀧社長から呼ばれたのだ。治郎が男をやりこめ一件落着かに見えたが、その後、木挽座は右翼からの猛攻撃に遭う。その心労のせいか、木挽座の川端専務が舞台装置で首を吊った姿で発見される。続いて大道具の棟梁・長谷部の死体が舞台袖で見つかる。

 一方、治郎の妻のいとこで、映画女優の道を歩み出したばかりの大室澪子は、突如、二枚目スターの相手役に大抜擢される。世は歌舞伎からキネマの時代へと移ろうとしていた──。

 本書は「壺中の回廊」「芙蓉の干城」に続く、歌舞伎ミステリーの第3弾にして完結編。

「不敬」という言葉が盛んに叫ばれ始めた時代を背景に、美濃部達吉の天皇機関説問題、歌舞伎やキネマの降盛を絡めながら、治郎が木挽座で続く連続怪奇事件の真相に挑んでゆく。

 二・二六前夜となるきな臭い時代が現代と重なってみえる。

(集英社 2090円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

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