「老害の人」内館牧子著
緊急事態宣言中の2020年に元気に85歳を迎えた戸山福太郎は、すごろくやカルタの製作販売会社「雀躍堂」の元社長。10年前に引退して娘婿の純市にその座を譲ったものの、その際1室だけ会社内に部屋を用意してほしいと新社長に頼み込み、形だけといいながら「経営戦略室長」の肩書までつけてもらった。
その後5年間は会社に顔を出すことはなかったものの、ある日突然出社を開始し、誰彼かまわずかつての成功体験話を繰り返すようになってしまった。今さら老人にむち打つことは言いたくないと、周囲が見て見ぬふりをし続けるうち、社員のみならず取引先にまで被害者が続出。ついに娘の明代が、福太郎に苦言を呈すのだが……。
高齢者の生態を描いた「終わった人」「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」に続く、高齢者小説第4弾。昔話、説教、病気自慢、趣味自慢、クレーマーなど、元気な高齢者が陥りがちな老害の数々をコミカルに描いた高齢者群像劇だ。福太郎の元に集まるパワフルすぎる高齢者の無自覚な言動に悩まされる、家族や周囲の人の心情がシビアなリアルさで伝わってくる。 (講談社 1760円)