「情報公開が社会を変える」日野行介氏
日野行介著「情報公開が社会を変える」
インボイス制度や関西万博など「なぜ、そんなことが必要なのか」と多くの国民の疑問を無視し着々と進んでいく政策。そうした現状に立ち向かえる方法のひとつが情報公開請求なのだと、新聞記者として調査報道に携わってきた著者は言う。
本書は、一般にはなじみの薄いものの、国を含む「役所」の政策決定の過程を明らかにする情報公開請求、そしてあらゆる情報が書かれた公文書について、その制度の仕組みや利用方法などを分かりやすく紹介した一冊。あらゆるノウハウと共に、巧妙な隠蔽をかいくぐって公文書を入手し、核心の情報に悪戦苦闘してたどり着いたエピソードも紹介する。
「公文書は役人の所有物ではなく、国民の共通財産で、情報公開は法律や条例で保障された国民の権利なんです。ですから公文書の開示を求められたら役所は無視できません。お願いして出してもらうものではないんですよ。でも、出し渋るとしたらそれこそ隠したい何かがあるということ。不透明な結論や突然の負担の理由を追及するには、情報公開制度は強力な武器なんです」
「東海第2原発」の原発避難計画はハリボテ
たとえば「避難計画」など外部からは実効性の有無を検証できない事案でも、情報公開制度によって入手した資料を使い、実態を暴くことができる。実際、著者は2021年、東海第2原発(茨城県東海村)に関して、茨城県の策定した原発避難計画で全住民が避難可能としていたものが、実はそうではなかったことを突き止めた。
「避難先とされた半数の市町村で学校体育館などの施設の避難生活面積に、トイレや玄関という生活に使えないスペースまで計算に入れて過大算定していたんですね。報道したのですが茨城県は問題を一切公表していなかった。実効性のある計画ではなく、ハリボテでいいから作ってしまえという姿勢しか見えませんでしたね」
情報公開と同時に重要なのは公文書だ。情報公開制度があっても、役所が公開されるべき公文書を作成・保管していなければ請求しても手に入らない。
「意思決定過程を記録した公文書は残さなければいけないものであり、公文書管理法でそれを明文化していることに意義があります。情報公開と公文書管理は片方だけでは機能せず、健全な民主主義を支える車の両輪といわれます」
しかし、残念ながら公文書管理制度にも抜け穴はある。まだ記憶に新しい「モリカケ」問題では、あの手この手で抜け穴を悪用された。交渉記録は保存期間1年未満の文書で廃棄していいものなので廃棄した、担当者の面談記録は職員の個人メモであり公文書ではないから開示しないなど、その言い訳は呆れたものだった。
「それでも、なにをしても役人には逆らえないとあきらめてはいけないんです。情報公開請求という権利を行使して、役人が抜け穴を使い続けている実態を明らかにしていくしかない。もし請求して受け取った文書が黒塗り(不開示)である場合、さらに不服申し立てという審査請求もできます」
一般に、民主主義を守るためには選挙に行くことが大事だといわれている。しかし、著者はこう訴える。
「不正に立ち向かえる最大の武器は誰もが使える情報公開制度なんです。行政情報を引き出し、自分が知って、納得して、情にすがらないで理で判断することは民主主義の出発点だと思います」
(筑摩書房 968円)
▽日野行介(ひの・こうすけ)1975年生まれ。ジャーナリスト・作家。元毎日新聞記者。著書に「福島原発事故 県民健康管理調査の闇」「調査報道記者-国策の闇を暴く仕事」「原発再稼働-葬られた過酷事故の教訓」など。