「中高年が朝までぐっすり眠れる方法」加藤俊徳氏
「中高年が朝までぐっすり眠れる方法」加藤俊徳氏
布団に入ってもなかなか寝付けない、夜中に何度も目覚めてしまうなど、睡眠にまつわる悩みは多い。仕方ないと片付けがちだが、質のいい睡眠がとれない状態が続くと脳と体は劣化する。
「睡眠時の無呼吸や睡眠不足を放置すると、パーキンソン病になる可能性も高くなり、アルツハイマー型認知症になる因子にもなります。糖尿病、脳卒中、うつや不安症、あらゆる不調も、深く睡眠をとることで解消する可能性がある。僕が医師になった当時とは違う医学的事実が過去10年くらいで積み上がって、特に睡眠や脳の分野が急速に発展してきました」
本書は、脳内科医としての経験と睡眠に関する最新の国際的な知見から導き出した、睡眠障害に悩む人に贈る不眠改善の書だ。睡眠障害の原因や睡眠状態をチェックする睡眠問診票に加えて、不眠を改善する療法や習慣を紹介している。
扁桃腺摘出手術や鼻粘膜の肥厚を解消するレーザー治療などの物理療法や、寝ている間に鼻と口にマスクを当てて圧をかけた空気を直接送り込むCPAP(持続陽圧呼吸療法)などについて詳述しているが、これらは長年睡眠障害に苦しんできた著者が実際に受けたものでもある。結果、劇的に睡眠の質が向上。試行錯誤の末に、自分には8時間半程度の睡眠パターンだと心身が良好だということにたどりつき、現在、家族の協力も得て快眠生活を送っているという。
「睡眠を見直したことで、私自身が60代でパフォーマンスが上がり、快適になりました。記憶力の低下も年のせいにしがちですが、1日6時間睡眠の人と7時間睡眠の人では、たった1週間で7時間も差がつく。睡眠不足が続けば、記憶の整理や脳の老廃物の処理が追い付かず、脳の機能は低下します。生活次第で脳の消費期限が左右されることを知ってほしいですね」
本書がユニークなのは、「脳番地療法」なるものを紹介している点。著者は、脳の機能ごとに分類した「脳番地」の提唱者で、脳番地は①思考系②伝達系③感情系④運動系⑤視覚系⑥理解系⑦聴覚系⑧記憶系の8つに分類される。昼間使わない脳の部位があると深い睡眠が得にくいことが、近年睡眠時の脳波で証明されたことから、著者は日中使われない脳番地を意識的に使うことを推奨する。
たとえば、日中人に会わずデスクワークのみなら、1時間ほど歩くなどして運動系脳番地を刺激する。逆に絶えず多くの人と接する接客などをしているなら、意識的にひとりになる時間をつくる。同じことばかり繰り返さず、あえて普段使わない脳番地を使うことが良眠のコツだそうだ。
「不眠症は、薬で治すものではありません。睡眠薬の常用は死亡率が上がるというデータもある。寝ないで頑張るとか、多くの日本人が頑張りどころを間違い、僕自身も失敗したと思っています。今の日本を改善するのに一番いいのは平均睡眠時間を2時間延ばすこと。医療費もセーブできて、パフォーマンスも上がり、出生率も上がって少子化対策にもなります。ぐっすり眠れていないなら、まだ本当の自分の能力に出合えていない可能性が高い。生き生きとした脳を取り戻すために、ご自身の快眠を見つけてください」
(アチーブメント出版 1496円)
▽加藤俊徳(かとう・としのり) 脳内科医・医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。「努力なし! 70歳から脳が成長するすごいライフスタイル」「脳が若返る最高の睡眠」など著書多数。