「羅城門に啼く」松下隆一著
「羅城門に啼く」松下隆一著
飢饉と疫病で、至る所にむくろが放置された平安京で、イチはヤマとクマと何とか生き延びていた。親の顔も知らず、奴婢として売られた家から逃げ出したイチにとって、2人は初めてできた仲間だった。3人は、生きるため盗みも殺人もちゅうちょはしない。
ある夜、3人で油商人の屋敷に忍び込むが、イチとクマが捕まってしまう。クマに続いて首をはねられようとした寸前、イチは現れた坊主によって命を救われる。以来、イチは空也上人と呼ばれるその坊主に言われるまま、放置されたむくろの埋葬を手伝う。ある日、埋葬を頼まれた遊女の遺体を見てイチの心が騒ぐ。イチらが殺した油商人夫妻の娘だったのだ。墓場で埋めようとすると、遊女が息を吹き返す。
荒れ果てた世の底辺で生きる若者の魂の再生を描く京都文学賞受賞作。
(新潮社 605円)