「大阪」岸政彦、柴崎友香著
「大阪」岸政彦、柴崎友香著
進学を機に大阪に移り住んだ岸氏と、故郷の大阪を出て15年が過ぎたがいまだに「東京出張中」の感覚でいるという柴崎氏による往復エッセー。
岸氏の冒頭の一文は、新婚のころに住んでいた住吉区を久しぶりに散歩した折のエピソードから始まる。路面電車で乗り合わせた高校生たちの姿に、パートナーとの間に子どもはできなかったが、こうやって大阪で生まれて、地元の子として大阪で育っていく自分たちの子どもの姿を夢想してみる。
柴崎氏の一文は、大阪・大正区の市営団地で2歳のときに見た光景から始まる。工場から流れてくるにおいや病院の診察室など、記憶にある当時の大正区の細部の情景が蘇る。
2人の個人的な体験から大阪という街に流れる時間や暮らす人々の堆積した人生が立ち上る。
(河出書房新社 924円)