著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「彼女たちの戦争嵐の中のささやきよ!」小林エリカ著

公開日: 更新日:

「彼女たちの戦争嵐の中のささやきよ!」小林エリカ著

 10代の頃、憧れの先輩がいた。物知りで反骨心があって、ちょっとひねくれたタイプ。先輩は「選挙には行かない。政治なんてくだらない」と言い、わたしはその態度をかっこいいと思っていた。無知&バカでした。

 大学生になって、慕っていた先生が「選挙には行きなさい」と静かに言ったので、わたしは宗旨変えをした。大人になる前に方向転換できてよかった(当時は選挙権年齢が20歳だった)。先生は日本で生まれ育ったが中国籍で、自身は選挙権をもっていなかった。

 そんな昔のことをしみじみ思い出したのは、女性参政権運動の闘士エミリー・デイヴィソンについて読んだから。1913年6月4日、イギリスのエプソム競馬場で行われたダービーに国王の愛馬が出走した。エミリーは、猛スピードで駆けてくる馬の前に身を投げるという決死の抗議行動をやってのけた。そして頭蓋骨骨折の重傷を負い、4日後にこの世を去る。その葬儀には、女性参政権を求める白いドレスの女性たちが多数参列したという。

 イギリスの女たちが投票権を手に入れるまでにさらに5年を要した。「いま、女である私が、手にしているこの権利は、かつて、彼女が、彼女たちが、命を賭して、手にしたものだ」と著者は書く。

 本書には、近現代史のなかで闘った女性の物語が28編おさめられている。アンネ・フランクや伊藤野枝といった見知った顔もあり、初めて聞く名前もたくさん。いまわたしが(いろいろ憤慨しながらも)大きく呼吸ができているのは、彼女たちのおかげだと手を合わせる。こうして一冊にまとめてくれた著者にも。 (筑摩書房 1870円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  2. 2

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 3

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  4. 4

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  5. 5

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  1. 6

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  2. 7

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ

  3. 8

    モー娘。「裏アカ」内紛劇でアイドルビジネスの限界露呈か…デジタルネイティブ世代を管理する難しさ

  4. 9

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  5. 10

    小松菜奈&見上愛「区別がつかない説」についに終止符!2人の違いは鼻ピアスだった