「ムクウェゲ医師、平和への闘い」立山芽以子著 華井和代著 八木亜紀子著
「ムクウェゲ医師、平和への闘い」立山芽以子著 華井和代著 八木亜紀子著
わたしは数年前から日本に住むコンゴ人にリンガラ語を習っている。と、いろんな人に自慢しているのだが、最近はリンガラ語教室の先生も生徒たちもすっかりサボり癖がついて、授業はしばらく開催されていない。それでもまだ見ぬコンゴ民主共和国に愛着が湧いて、かの地の音楽を聴いたり、サッカーの国際試合で同国代表(愛称はレオパード)を応援したりしている。そしてコンゴを語るとき、避けて通れないのがムクウェゲさんとその向こうに広がる悲惨な現実だ。できればこの地獄から目を背けたい。でもスマホを使っている以上、わたしも関係者だ。おそらくこの記事を読んでくれている皆さんもまた。
コンゴ東部には多くの鉱物資源が埋まっている。スマホやゲーム機に使われるタンタルや電気自動車に使われるコバルト、それに金、スズ、タングステンなど。それらを奪おうと武装勢力が暗躍している。
「村々を支配、蹂躙するのに戦車や爆撃機は必要ない。女性をレイプするだけでいい」(ムクウェゲさんの自伝から)
のみならず女性器を焼いたり、ナイフで切り裂いたり、銃弾を撃ちこんだりする。恐怖に支配された村人たちは、無抵抗のまま危険な鉱山で酷使され、鉱物資源は略奪されていく──。
産婦人科医のムクウェゲさんはその場所に病院を建てた。そこで治療を受けたレイプ被害者は二十数年間で8万5000人以上。は、はちまん……。ことばを失う。自らも命を狙われながら女性たちを助け続けているムクウェゲさん。絶望の出口はどこにある? まずは知ることだと本書は説く。本を閉じ、自分のスマホをじっと見る。
(岩波ジュニア新書 968円)