「キング・オブ・コメディ」演技派が見せた静かなる狂気
相手が拒否しているのに「食事しよう」と何十回も誘ったり、飛び込み営業で断られたのに「契約が取れた」と思い込む男もいる。彼らに迷惑を受けた経験のある人はルパートに不穏なザワザワ感を覚えながらも、つい引き込まれてしまうだろう。「タクシー・ドライバー」を思わせる結末も秀逸。スコセッシ監督は両作品に風刺的な皮肉を盛り込んだ。
デ・ニーロの持ち味に狂気の表現がある。本作は「ケープ・フィアー」「ザ・ファン」と一味違う“静かなる狂気”。この20年、デ・ニーロは平凡な演技を続けてきた。たまには原点に返り、パンチの効いた役を演じてほしい。
(森田健司/日刊ゲンダイ)