舞台「外地の三人姉妹」は過去が題材だが、その描く先には未来がある
■チェーホフ『三人姉妹』の舞台を日本統治下の朝鮮北部に置き換え
話を『外地の三人姉妹』に戻そう。韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」の芸術監督ソン・ギウンが翻案・脚本を手がけ、「東京デスロック」主宰の多田淳之介が演出した作品。チェーホフ『三人姉妹』を原作に、物語の舞台をロシア帝政末期の田舎町から1930年代の日本統治下の朝鮮北部に、三姉妹を亡くなった日本軍将校の娘たちに置き換えている。日韓いずれか一方的な視点に回収しない、されたくないという強靱な意志が隅々まで感じられ、それを具現化するための創意と工夫、飛び交う多言語、細やかな配慮のひとつひとつにぼくは圧倒された。俳優陣の適材適所ぶりも申し分ない。
まるで今昔の日韓関係を言い当てるかのようなチェーホフのタイムレスな視座には、あらためて驚嘆するばかり。だが古典に新しい価値を与えるのはいつも新しい人々だ。本作の成功は、10年以上もコラボレーションを重ねて実らせてきたソン×多田コンビの豊かな才能と継続的な意志あってのものに違いない。おふたりに最大限の敬意と心からの拍手を送りたい。ぼくも2000年頃から韓国の音楽人たちとの協働で七転八倒してきた身なので、拍手もしぜん大きくなってしまう。