著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

舞台「外地の三人姉妹」は過去が題材だが、その描く先には未来がある

公開日: 更新日:

■チェーホフ『三人姉妹』の舞台を日本統治下の朝鮮北部に置き換え

 話を『外地の三人姉妹』に戻そう。韓国の劇団「第12言語演劇スタジオ」の芸術監督ソン・ギウンが翻案・脚本を手がけ、「東京デスロック」主宰の多田淳之介が演出した作品。チェーホフ『三人姉妹』を原作に、物語の舞台をロシア帝政末期の田舎町から1930年代の日本統治下の朝鮮北部に、三姉妹を亡くなった日本軍将校の娘たちに置き換えている。日韓いずれか一方的な視点に回収しない、されたくないという強靱な意志が隅々まで感じられ、それを具現化するための創意と工夫、飛び交う多言語、細やかな配慮のひとつひとつにぼくは圧倒された。俳優陣の適材適所ぶりも申し分ない。

 まるで今昔の日韓関係を言い当てるかのようなチェーホフのタイムレスな視座には、あらためて驚嘆するばかり。だが古典に新しい価値を与えるのはいつも新しい人々だ。本作の成功は、10年以上もコラボレーションを重ねて実らせてきたソン×多田コンビの豊かな才能と継続的な意志あってのものに違いない。おふたりに最大限の敬意と心からの拍手を送りたい。ぼくも2000年頃から韓国の音楽人たちとの協働で七転八倒してきた身なので、拍手もしぜん大きくなってしまう。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    岡田阪神“強制終了”は「事実上の解任」…体調不良で異例の退任会見ナシなど誰も信じない

  2. 2

    阪神岡田監督は連覇達成でも「解任」だった…背景に《阪神電鉄への人事権「大政奉還」》

  3. 3

    岡田阪神は「老将の大暴走」状態…選手フロントが困惑、“公開処刑”にコーチも委縮

  4. 4

    藤川阪神はヘッド&二軍監督の組閣難航で多難すぎる船出…鳥谷敬氏や赤星憲広氏の招聘は絶望的

  5. 5

    佐々木朗希はトミー・ジョン手術へまっしぐら…メジャースカウトが看破した160キロ右腕の“キズ”

  1. 6

    大谷を苦しめる「ダルビッシュの亡霊」…メッツのデータ分析班が配球パクって徹底対策

  2. 7

    中日・井上新監督が抱える「中田翔」というジレンマ…復活に期待も世代交代の障害になりかねない

  3. 8

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  4. 9

    ソフトバンク 投手陣「夏バテ」でポストシーズンに一抹の不安…元凶はデータ至上主義のフロントか

  5. 10

    二階俊博Jr.vs世耕弘成前参院幹事長…和歌山2区で「裏金」同士の醜悪すぎる罵り合戦【総選挙ルポ】