「大自然に生かされている命の喜び」患者の言葉を実感した
私は看護師さんに、「困ったな。Gさんは帰ってしまって、もう返せないだろう。今日の僕は当直で家に帰れないし、あなたにあげるから持って帰ってくれる?」と渡しました。
それから2週間後のことです。Gさんは急に痙攣が起こって救急車で緊急入院されました。
意識がなく、CTスキャンを見ると、脳幹部という呼吸では最も大切な部分にがんが転移しています。緊急で放射線治療を開始しましたが、5日後には亡くなられてしまいました。
がんが良くなって、あれだけ喜んで、「命の喜びを知って」と言ってくれたGさん。私は、せっかく摘んできてくれたアスパラガスを、自分が食べずに人にあげてしまったことは、Gさんにとても悪いことをしてしまったように思いました。あの時の外来が、Gさんとお話できた最後だったのです。
今回、里山の旅で摘んだばかりのアスパラガスをいただいて、そのおいしさに、Gさんが言われる「命の喜び」が分かったような気がしました。
私は何十年もずっと都会で暮らしていて、学生に向けた講義では「命の大切さ」を繰り返し話しています。しかし、Gさんの言われる「大自然に生かされているこの命の喜び」を、大して知らないまま、これまで過ごしてきたんだなと思わされました。