遺伝情報が変化 強い恐怖やショックは子供に受け継がれる
戦争や大災害で、肉体的・精神的に強いショックを受けると、長い間心の傷となり、心的外傷(トラウマ)、PTSDなどを引き起こす。PTSDは後天的なイメージがあるが、親からの遺伝という形で先天的に受け継がれる可能性があることがわかっている。実際、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を母親の胎内で体験した子供は、そうでない子供に比べて、ささいなことでも過敏に反応するという。
本当に心の傷は子孫に受け継がれるのか? その答えを得るため、米国エモリー大学のケリー・レスラー博士らの研究チームは、実験用の雄マウスにサクランボの匂いをかがせながら、足に電気ショックを繰り返し与えることで、匂いに対する恐怖心を植え付けた。その後、このマウスの子孫がサクランボの匂いにどのように反応するかを調べたという。結果は、生まれた子供マウスにさまざまな他の匂いをかがせたものの反応はせず、サクランボの匂いにのみ強い恐怖心を感じるようなしぐさを見せたという。「日本人の遺伝子」(角川新書)の著者で、国際医療福祉大学病院内科学の一石英一郎教授が言う。
「この研究で興味深いのは実験用の雄マウスが電気ショックによりサクランボの匂いに恐怖を植え付けられた時点では、子供マウスは母親マウスの胎内にはいなかった点です。もちろん、雌マウスには同じ実験は行っていません。つまり、サクランボの匂いに対する恐怖心は、精子内のシステムを介して子孫に伝えられたと考えられたのです」