ビフィズス菌が記憶力低下を予防する 名古屋市立大教授が実験で確認
近年、腸内細菌とアルツハイマー病が密接に関連していることが明らかになりつつある。それに関する研究は国内外問わず複数あるが、注目されているもののひとつが腸の代表的な善玉菌、ビフィズス菌MCC1274株に関する研究だ。
ビフィズス菌にはさまざまな株があり、MCC1274株はその一種。MCC1274株を用いたヒトを対象にした認知機能に関する臨床試験には、次のようなものがある。
軽度認知機能障害(MCI)はアルツハイマー病の前段階で、1年に5~15%がMCIからアルツハイマー病へ移行するといわれている。
研究では50歳以上80歳未満のMCIが疑われる80人が、MCC1274株またはプラセボ(偽)を16週間以上摂取。すると、MCC1274株摂取群は認知機能が摂取前と大幅に改善し、プラセボ摂取群と比較しても有意に改善した。
この論文は国際的なアルツハイマー病の学術誌「Journal of Alzheimer's Disease」で2020年7月に公開されている。
では、なぜ認知機能が改善されたのか?
アルツハイマー病モデルマウスを使い研究を行ったのが、名古屋市立大学大学院医学研究科神経生化学分野の道川誠教授だ。
「アルツハイマー病は20年以上かけてアミロイドβが脳の中に沈着し、それによって脳の中で神経細胞やシナプスの減少、グリア細胞の活性化、炎症などが引き起こされ、発症すると考えられています」
研究ではまず、アミロイドβ沈着前の3カ月齢のマウスにMCC1274株を4カ月間投与し、認知機能を新規物体認識試験で評価した。
新規物体認識試験は、新しい物体に興味を示すマウスの性質を利用したものだ。
同じ形の2つの物体をケージに入れて、それぞれの探索時間を計測。24時間後、1つだけ形の違う新しい物体に替え、それぞれの探索時間を計測。脳が正常なら新しい物体に興味を示すので、そちらへの探索時間の方が長くなる。
7カ月齢では認知機能低下(記憶障害)が生じ、新規物体認識の能力が落ちているのだが、MCC1274株投与群では違った。
「つまり、記憶障害が予防されたのです。そこでMCC1274株を4カ月間投与したマウスの脳切片をアミロイドβ抗体で染色。すると記憶において最も重要な海馬で、アミロイドβ産生や沈着が有意に低下していました。そのメカニズムをさらに調べると、アミロイドβ産生を抑制する酵素の増加も分かったのです」(道川誠教授)