著者のコラム一覧
新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

母親の死後、血糖コントロールが悪くなった父親をなんとかしたい

公開日: 更新日:

自分が言ってダメなら、ほかの人…言う人が代われば反応も変わる

 前回、「糖尿病は、発症して早い段階で速やかに体重コントロールに努めると、寛解につながる可能性が高い」と紹介しました。寛解とは、病気による症状や検査異常が消失した状態のこと。完全に治るわけではないものの、完治とほぼ変わらない状態と捉えていいかと思います。合併症のリスクは激減しますから、糖尿病に関連しての認知症のリスクも低くなります。

 では、長年患っている糖尿病の場合、今から血糖コントロールをしっかりやっても認知症予防は難しいのか? 決してそうではありません。

 軽度認知障害(MCI)から認知症へ移行する率は年間10~15%といわれていますが、糖尿病に合併したMCIではさらに高度に認知症へ移行するという研究結果があります。

 また高齢者糖尿病を対象にした研究では、認知症発症リスクはHbA1c(数カ月の血糖値を反映する数値)7.2~7.6%で最も低く、7.9%以上で有意に増加するという結果。75グラム糖負荷試験の成績と認知症発症との関係を調べた久山町研究では、食後高血糖を反映する負荷後2時間血糖の高値(140㎎/デシリットル以上)がアルツハイマー病とのリスクと関連していました。

 すなわち、認知症予防のためにも、何歳であっても糖尿病治療に取り組むことは非常に重要なのです。

 食事にも運動にも無気力になってしまった父親に対し、一人でいろいろ努力するも空回りになっていた女性は、私が雑誌に寄稿していた“病院に行きたがらない親を、どうやって説得し連れて行くか”を読み、父親への働きかけ方を変えました。

 その内容は、「実の娘が言って駄目なら、娘の夫、娘の子供(孫)など、言う人を代える」。

 一人で実家に行き料理を作り置きするのではなく、時間の都合がつく場合は、夫や大学生の息子と出掛け、みんなで食卓を囲む。さらに息子には、バイト帰りに実家に寄ってもらう。母親が生前親しくしていた隣近所の人にお願いし、時々父親の様子を見てもらう──。

「そういえば、息子はもともとおじいちゃんっ子だったんです」

 実家に寄ったついでに泊まってくることが増え、祖父&孫で一緒にラジオ体操をしたり中国語会話のテレビ番組を見たり、そのうち社会人の中国語会話サークルに参加するように。いろんな人との交流が増えるに伴い、父親は「長生きしなきゃな」が口癖となり、以前のように食事や運動に取り組むようになったそうです。

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