アルツハイマー病の新薬は認知機能低下を7カ月半遅らせる
軽度な状態が2~3年延長
私たちの体には、異物が入ってくるとそれに対して抗体を作り、異物を無毒化する機能が備わっています。この仕組みを利用した薬が抗体医薬。レカネマブも、抗体医薬になります。アミロイドβに反応する抗体医薬で、これを投与し、脳内のアミロイドβを除去するのです。
ワクチン接種で体内にアミロイドβの抗体を作り、アミロイドβを除去する方法は、動物実験では成功したものの、ヒトを対象にした臨床試験で数%の患者さんに重大な副作用が見られ、中止となりました。
そこで次に試みられたのが、アミロイドβに反応する抗体医薬を作り、投与する方法です。
バピネウズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ……。アミロイドβの抗体医薬はこれまでに複数開発され、臨床研究が行われてきました。いよいよ日本でも抗体医薬が承認かと、期待が高まったのが2021年です。
アデュカヌマブの大規模臨床試験で認知機能低下を22%遅らせるという結果が出たのですが、それは臨床試験を途中で「効果は見られない」と中断した後に追加で集めたデータで解析し直したもの、しかも2つの大規模のうち一方だけで出た結果であったことから、日本では承認は見送り。アメリカでは20年、FDA諮問委員会が承認を支持しないことを表明したものの、21年に条件付き承認(一時的な承認。新たな臨床試験の結果で正式承認かどうかの判断)となっています。
一方、レカネマブは、臨床試験の主要な評価項目すべてで効果を発揮。アメリカでは、日本に先駆けて7月に正式承認となっています。
レカネマブと、これまでの薬とは何が違うのか?
アルツハイマー病の主な薬としてこれまであったのは、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬。脳内ホルモンの補充や神経細胞障害を防ぐ薬で、対症療法(症状を和らげる)として使われていました。
レカネマブをはじめとする抗体医薬は、原因物質アミロイドβを除去して、認知機能が落ちていくのを食い止めようとする薬です。国際的なアルツハイマー会議で発表された内容によると、レカネマブ投与群は、プラセボ(偽薬)群に対し、認知機能の低下を7カ月半遅らせられるとのこと。
また別のシミュレーションでは、アルツハイマー病が軽度な状態で持続する期間が2年半から3年1カ月延びる可能性があると示されています。
アルツハイマー病は、発症前から生活習慣の改善、適度な運動、脳を活性化する活動などを取り入れることで、発症時期や進行のスピードを遅らせられる可能性がある。ここにレカネマブなどの抗体医薬が加われば、また違った展開になるかもしれない……。そう私は考えています。