「がんですか?」と唖然…沢朋宏アナが未分化多形肉腫との闘病を語る

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沢朋宏さん(CBCアナウンサー・気象予報士/50歳)=未分化多型肉腫

 左脚のふくらはぎに不自然な膨らみがあることはわかっていました。でも、「どこかにぶつけたんだろう」と自分に思い込ませていたんです。それが悪性腫瘍だとわかったのは昨年6月中旬のことでした。

 じつは4月ごろから発熱と咳の症状で、かかりつけの内科や耳鼻科を何度も受診していました。でも原因がわからず、熱も下がらないまま1~2カ月が過ぎていきました。小学1年生の子供とお風呂に入ると、「パパのそれなに?」と聞かれ、妻にも「その脚の膨らみ、何かあるかもしれないから先生に診てもらってみたら?」と何度も促され、仕方なく内科の先生に脚を見せたのです。

 その途端、先生の顔色が変わって「悪いことは言わん。このまますぐに整形外科へ行ってくれ」と言われました。整形外科で脚を見せると、その先生の顔色も変わって、すぐにMRIを撮影。戻ってくると、もう「がんの専門病院へ行ってください」と紹介状を渡されたのです。「がんですか?」と唖然としました。

 そこで細胞を採って調べた結果、「悪性」と告げられ、「翌日から入院」と言われました。でも「1日だけ仕事に行かせてください」とお願いしました。

 検査のために何度も番組を休んでいたので、このまま入院してしまったらもう現場に戻れないような気がしたのです。あの日、現場の空気に触れて「よし、絶対ここへ戻ってくるぞ!」と自分を奮い立たせました。

 くしくもその日は50歳の誕生日でした。SNSでお祝いのメッセージをたくさんいただきました。病気とは知らずに普通に送ってくれたものなんですけど、「これは病気の自分へのメッセージだ」と都合よく解釈して、それも励みになりました。「長く休むし、全部リセットだ。51歳を迎える時には、イエーイ! 最高! と思っていよう」と、そんな感じで治療のスタートを迎えました。

 正式な病名は「悪性軟部肉腫の未分化多形肉腫」。治療は、抗がん剤3クールの後、外科的手術で患部を切除し、さらに抗がん剤2クールでもう一度がんを叩き、さらに30回の放射線でダメ押しするというものでした。

■自宅療養では焼き肉を好きなだけ食べた

 抗がん剤治療は1週間入院で抗がん剤を点滴し、その後2週間は自宅療養で体力回復。それを1クールとして3回繰り返しました。副作用で一番覚えているのは倦怠感です。何もやる気が出ません。たとえば、尿意を感じても起き上がる気力が湧かず、1時間ほどベッドでグダグダ考えてやっとトイレに行く、といった具合です。

 食欲も失せて体重も落ちました。でも、心配した主治医に「何でも好きなものを食べてください」と言われて自宅療養になったら、その日の夜に焼き肉の食べ放題に行きました。翌週にはすき焼き、その翌週は再び焼き肉……と本当に好きなだけ食べて太っちゃいました(笑)。主治医もびっくりするほど副作用のない患者だったみたいです。

 患部の切除手術は8月末でした。ふくらはぎの筋肉を広範囲に切除して、そこへ背中から取った肉と皮膚をはりつけるというもので、8~9時間かかりました。術後、脚はあまり変わっていないように見えましたが、背中(厳密には脇腹あたり)の皮膚が引きつって、しばらくは胸を反るような格好でした。

 1週間後には看護師さんに付き添われて歩きました。すると周りの皆さんが「沢さん、すごい。もう歩けるんですね!」と声を掛けてくださって、とてもありがたかった。自分にとってはそうした応援や声援が本当に励みになりました。

 術後3週間ほどしてから、4回目の抗がん剤を1週間点滴して退院。さらに10月下旬に最後の抗がん剤を行って、その後に30回の放射線治療をしました。

 11月末にあった全身のCT検査では、「転移・再発なし。よって今回の肉腫に関する治療は終了とする」というご判断をいただきました。ただ、このがんは肺に転移することがあるので、しばらくは定期的にCTや血液検査を行って経過観察を続けていきます。

 今回のことで経験できたのは「役割の断捨離」。アナウンサー、気象予報士、ほかにもボーイスカウトの指導もやっていたんですが、全部休業しました。残ったのは父であること、夫であること、両親にとっての子であることだけ。自分にとって本当に必要なものは何か、やりたいことは何かを考える時間を半年間もらったんだと思っています。

 ふくらはぎの筋肉を取ったことで、永遠にできないことが自分にもできました。それは正座とスキップ、それから駆け出すこと。取った代わりに付けたものは肉と皮。周囲の筋肉が補ってはくれますが、一生、筋肉にはなりません。「どう頑張ってもできないことが自分にはあるんだ」と認識できたことで、無理を強いるのはやめようと思うようになりました。自分に対しても、周りに対してもです。

 そして、これまでは割と直感的に即断即決を心がけてきたんですけど、今回のことでは覆されることが何度もありました。自分の視野や常識を疑うことを学び、いったん考えてから決断しようと思うようになりました。 (聞き手=松永詠美子)

▽沢朋宏(さわ・ともひろ) 1973年、愛知県出身。96年に地元のCBCテレビに入社し、アナウンサーとして活躍。気象予報士の資格を取得し、「ゴゴスマ~GOGO!Smile!~」(CBCテレビ制作、TBS系列24局で生放送)のお天気コーナーを長く担当している。

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