放射線治療の実例…高齢でも「オリゴ転移」なら長期生存も
前回、少数の転移である「オリゴ転移」についてお話ししました。今回は実際の体験をお話しします。患者さんは89歳のときにPET検査などで左肺上の肺がんと肝臓の転移と診断されました。実際には高齢なので気管支鏡で組織診断はされていない“蓋然診断”の肺がんでした。
大学病院では年齢的に治療不可能、陽子センターでも転移があるので治療はできないといわれ、江戸川病院なら治療してくれるかも……とのウワサを聞きつけていらっしゃった患者さんです。
症状はなく、画像ではたしかに左肺の腫瘍と、肝臓の転移のひとつでオリゴ転移でも初発時にすでに転移巣が存在する「synchronous oligometastases」(編集部注:原発巣が制御されていない小数個の再発/転移状態のこと)と診断しました。そこで、それぞれ放射線治療を行ったところ、腫瘍マーカー「CEA」は低下し、2年以上たった今も3.0(ng/ml)と基準値以内、91歳になった分の体力などの低下はありますが、大きな変動なく定期的に私の外来を受診してもらっています。
このように、放射線治療は高齢であっても対応できるだけでなく、遠隔転移があってもオリゴ転移であれば無症状で長期生存できる可能性を秘めた治療法といえます。逆にオリゴ転移が1個でなく、10個もあったら私もこの患者さんの治療を引き受けなかったでしょう。いずれにせよ「転移があったらもうダメ」という短絡的な思考をする時代は過ぎ去ったようです。