がんの「オリゴ転移」では放射線治療を“最期の手段”にしない
前回は局所療法としての「手術」と「放射線治療」を比較しましたが、かつては遠隔転移が出た場合の局所療法は意味がないと考えられてきました。遠隔転移とは血行性転移ともいわれ、血流に乗ってがん細胞がほかの臓器に転移することを言います。有名なのは脳転移、肝臓転移、骨転移などです。
近年、「オリゴ転移」という言葉が登場しました。オリゴとはギリシャ語で「少ない」という意味で、オリゴ転移とは少数個のがんの転移のことです。一般的には「5個以内の転移」を指します(実際には初診時に5個以内の場合と再発時に出てくる場合などで細分化されています)。
この病態に対し、標準的な抗がん剤に「定位放射線治療」を加えたほうが予後が長くなることが知られています。また2023年12月には、「非小細胞肺がんと診断され、1ライン以上の全身療法を受けた結果、転移巣が5個以下になった人が次の治療を考える場合、標準治療に定位放射線治療を加えることで無増悪生存期間の延長が期待できる」と報告されました。
私は、抗がん剤治療を受けて順調に効いている場合、どこかで放射線治療を加えるべきだと思っています。しかし、残念ながらいまだに「放射線治療は最後の手段でとっておくべきだ」という考え方のドクターがかなりいることは確かです。つい先日も、このタイミングで放射線治療行うべきだとアドバイスした患者さんが主治医のところに戻って相談すると、「放射線治療はあくまで最後の手段であり、取っておくべきだ」と反対された例を経験しました。
抗がん剤で順調にがんが縮小していく際に「どこかで放射線治療のチャンスがあるかもしれない」という目で患者さんを見ているドクターが優れたがん治療医であると、私は思っています。