白髪を科学する(2)マリー・アントワネットの「一夜白髪」は事実か
昔から、恐怖により一晩で総白髪になったとの逸話は多いが、本当か? 資生堂リサーチセンター(研究所)で主に薄毛、白髪の研究に携わった日本毛髪科学協会の出田立郎氏が言う。
「ヒトの頭髪が極めて短期間で白髪になる現象はフランス王妃マリー・アントワネットが有名で、『マリー・アントワネット症候群』という名前までついていますが、1800年から200年間の論文のなかに約200例以上が報告されています。その仕組みは円形脱毛症が全頭に生じ、有色毛の選択的脱落が起こることが原因とされています」
恐怖が白髪を生むメカニズムは、ハーバード大学の研究チームが2020年1月に科学誌「Nature」(電子版)に報告している。それによれば、急性ストレスによって交感神経系が過剰に活性化すると、神経伝達物質のノルアドレナリンが大量に放出される。すると、毛包の色素再生幹細胞が過度に活性化され、急速に枯渇し、白髪を促進させるという。
マリー・アントワネットは、「女帝」と呼ばれたオーストリア大公マリア・テレジアの15番目の子供(十一女)で、14歳のときにフランス王太子(後のルイ16世)と政略結婚し、先代ルイ15世の崩御に伴う即位により18歳でフランス王妃になった。