白髪を科学する(2)マリー・アントワネットの「一夜白髪」は事実か
その後、フランス革命までの19年間に4人の子(2人は早逝)をなし、ベルサイユ宮殿の女主人として君臨。多くの芸術家の後見人になる一方で、赤字夫人と呼ばれるほど金を使い、フランス革命のときに民衆の憎悪の標的になった。国王一家は逃亡を図るが失敗し(バレンヌ事件)、ルイ16世は処刑され、マリー・アントワネットもその後、37歳で公開処刑されている。このとき多くの目撃者がいたことから、この時点で白髪だったのは間違いない。
ただ、白髪化はバレンヌ事件の際に起こった可能性もあるという。5日間の逃亡の失敗後に出迎えた筆頭侍女が「髪の毛はあたかも70歳の老婆のように白かった」と回想録に残している。また、収監中に仕えていた小間使いは後に「こめかみには白髪があったが、ほかにはほとんどなかった」と証言している。
これらが正しければ、バレンヌ事件での白髪は一時的で、いったん回復し、処刑直前にまた白髪化したと考えられる。つまり、マリー・アントワネットは生涯に2度、超短期で白髪になる現象を経験した人物ということになる。 (つづく)
▽出田立郎(いでた・りつろう)資生堂美容技術専門学校非常勤講師、日本臨床毛髪学会監事、日本色素細胞学会評議員、日本毛髪科学協会役員。東京大学大学院卒(理学博士)。1988年資生堂入社。リサーチセンター(研究所)で主に薄毛、白髪についての研究開発に携わる。2019年同社を退社。現在に至る。