末期すい臓がんの58歳男性「まさか自分が延命治療の対象になるとは…」
在宅医療を開始するにあたって、80代のお母さまと我々との間で、病状や治療についての状況の確認と情報の共有、これからどのような医療を選択するのかなど説明する機会を設けました。いわゆるIC(インフォームドコンセント)を開催したのです。しかし、そこでは退院時に本人が告げられたものより厳しいお話がされることとなったのでした。
当初1~3月と伝えられていた予後は、実際には年齢がまだ若いこともあってかがんの進行が速く、一層短くなっていたのです。冷徹な現実は、まだ覚悟を決めかねている本人を置いてきぼりにしたまま、さらに先へと進んでいたのでした。
ですが食事は口からしっかりと取れ、トイレも自力で行ける、そんなご本人にとって、この進行の速さはまさに青天の霹靂。
ご本人の自覚は乏しく、とても仕事を行えるほどのADL(日常生活動作)ではないものの、「仕事を続けたい」とお話をされるのでした。
ですから、もしものことがあった時に心臓マッサージなどの蘇生・延命行為を行うか行わないか、選べることをご本人とお母さまにお伝えした時などは、「まさか自分が……延命を受けるかもしれない状態になっているなんて考えていなかったなあ」と現実を受け入れることに戸惑われておられたご様子でした。