ストレスが原因と思っていたら……女優の春風ひとみさん片側顔面痙攣との闘い
ロンドン公演から帰国して極秘で手術
ロンドン公演は45日間。他の共演者より1カ月ほど早く帰国するスケジュールでした。幸いなことに公演中は痙攣頻度も少なく、休演日には公園でひなたぼっこしながら、帰国してからの手術の心構えをしていました。
「左外側後頭窩開頭微小血管減圧術」という繊細な手術で、当然、開頭しますから不安はありました。担当医からは「80~96%は回復する。でも回復の仕方は人それぞれで、痙攣がすぐに止まる人、1年後に止まる人、3年後に止まる人、さまざまです」と言われました。
背中を押されたのは、Netflixで見た歌手のセリーヌ・ディオンの闘病を追ったドキュメント番組でした。彼女の場合は「スティッフパーソン症候群」という原因不明の病気で、全身痙攣や顔面痙攣と闘う彼女の姿に感銘を受け、「頑張ろう」と思いました。
手術の合併症で一番心配したのは、聴力が落ちる場合もあるということでした。俳優生命に関わりますからね。でも、手術は大成功。4時間くらいと聞いていたのに、6時間もかかったので、主人は「何かあったのではないか」と心配したそうです。手術中に、予定外に2カ所、隠れた所に血管と神経が癒着しているのを見つけてくださって、それを先生が根気よく丁寧に取り除いてくれたそうです。全身麻酔から覚めたらすぐに痙攣が止まっていることがわかって、心底うれしかったですね。
術後の経過も良好で、10日の入院予定が1週間で退院となりました。私も病室でスクワットするくらい元気でした。
退院後、ロンドンから配信された「千と千尋」の大千秋楽を自宅ベッドで見るという得難い体験もしました。スタッフも共演者も誰も私の手術を知りませんでしたし、舞台の終わりと私の病気の全快が重なったわけですから。
今回、自分の病気と手術の経過を公表しようと思ったのは、X(旧Twitter)などの書き込みで同じ病気の人が悩んでいるのを知って、その方たちに何らかのアドバイスになればいいなと思ったんです。
この病気は10万人に1人の発症率ですが、いまは医療技術も進歩していますし、内に閉じこもらず病気に対処した方がいいと思います。私の場合、病気の特定ができ、手術したのは幸運でした。取材を受けていても、以前は痙攣が気になりカメラから視線を落としがちでしたが、今は堂々としてるでしょう?(笑) (聞き手=山田勝仁)
▽春風ひとみ(はるかぜ・ひとみ) 1960年、東京都出身。宝塚歌劇団で娘役として活躍。退団後、木山事務所に所属し舞台で活動し、「夢、クレムリンであなたと」で文化庁芸術祭賞、一人ミュージカル「壁の中の妖精」で紀伊國屋演劇賞・個人賞を受賞した。来年、「マタ・ハリ」の再演が控える。
■本コラム待望の書籍化!「愉快な病人たち」(講談社 税込み1540円)好評発売中!