スプリングバレーブルワリー 井本亜香社長(1)短大卒「一般職」でキリンビールに入社し「総合職」に転身
「おめでとう。君の念願がかなったよ。来月から本社に転勤してもらう」
上司からこう言われたが、井本亜香(53)はすぐには喜びを感じられなかった。むしろ、意外感が圧倒してしまう。地元・香川の四国学院短大英語科を卒業してキリンビール四国支社に地方採用の一般職で入社したのは1991年4月。それから、9年半が経過していた。
入社2年目から、彼女は会社に提出するキャリア申告書に「関東勤務希望」と、毎年書き続けていたのだ。勤務地が関東に変わるということは、総合職への転換を意味していた。
「広い世界で自分を試したい」
大企業のキリンに入社したのは、この思いがあったから。高松といえば、野球どころとして知られる。高松南高校時代、井本はソフトボール部に所属し、外野を守る強打者だった。県外遠征を重ね全国区の有力選手と試合で交流し、「広い世界にはすごい人がたくさんいる。高松にずっといるよりも、外に出たい」と考えるようになっていた。
ただし、勤務地も職域も限定されない総合職には大学を出ていなければ、就けない。短大を卒業した井本は、社員向けパソコン講師やマーケデータ管理といった与えられた仕事に必死に取り組む。やがて、4大卒の後輩たちが増えていく。彼ら、彼女らは井本よりも賃金が高い。昇進するスピードも速かった。