球界のエースから虎の有望株まで 江夏豊氏が「投手」を斬る
松坂の調子のバロメーターは縦のスライダー
今季プロ野球の話題を独占しているのは8年ぶりに広島に復帰した黒田博樹(40)だが、松坂大輔(34=ソフトバンク)も9年ぶりに日本球界に戻ってきた。松坂は開幕前にインフルエンザにかかり、さらに右肩の筋疲労で調整が大幅に遅れている。彼に高校1年の時から注目しているのが、現役時代に「優勝請負人」と呼ばれた江夏豊氏(66)だ。通算206勝の元剛球左腕が、松坂や二刀流の大谷、古巣の阪神投手などについて語った。
■松坂大輔には2ケタ勝てる可能性も
メジャーから日本球界に復帰した松坂大輔君は、右肘痛からの故障明けで心配していたら、右肩の筋疲労で一軍登板が大幅に遅れている。キャンプ中盤にインタビューをした時、「実際に痛みはまだあるの?」と聞いたところ、「ある時とない時があります。寒い時季は怖いですね」と言っていました。
僕は手術をしたことがないから、松坂君が右肘を手術してからどの程度まで回復しているのかはわからない。僕も現役時代に左肘を痛めたことがある。ねずみ(遊離軟骨)があって、難儀なことに痛くて仕方のない時と、全く痛くない時とがあった。軟骨がぐるぐると動いて止まったところが神経に当たらない箇所だったら痛くない。それが動いたり欠けたりして神経を圧迫すると激痛が走る。たばこは吸えない。ごはんも食べられない。歯も磨けない。肘が痛いといっても、個人によって症状や痛さが違う。最終的には本人にしかわからないことなんです。
松坂君は野球をするために生まれてきたような人。僕の家はテレビ神奈川が映るんだけど、彼が横浜高校の1年の時から、甲子園の投球も含めて、胸を熱くして見させてもらいました。
プロ入り1年目の春野キャンプに評論家として行った時、ブルペンで立ち投げで200球以上投げているのを見て、凄い子やなと思った。これがどれだけ苦痛か。立ち投げで構えたところに投げるためには、ボールが浮いても、抑えつけて投げてもダメ。ボールの回転、フォームのバランスが悪いと投げられません。1時間くらいずっと彼の投球を見ていて、初めは肌寒かったけど、投げ終わったときには僕も汗をかいていた。
プロ初登板で初勝利を挙げたことも凄かった。自分も高校からプロに入って、比較して見ますからね。肘に不安なくボールが放れるなら、2ケタは勝てると思います。
でも、痛みとの闘いになって消極的な投球になった時はどうか。彼は西武時代から、疲れて球の力が落ちても攻めの投球ができる。これが最大の長所です。肘の不安や怖さなしに投げることができたら、攻めの投球になってくると思う。調子のバロメーターは縦のスライダー。変化が大きくなりすぎてカーブみたいになってくると、きっちり放れていない証拠。クッと鋭く曲がるときはいい状態だとみていい。
■“二刀流”大谷は投手一本絞るべき
大谷翔平君(20)の二刀流については、僕は、どちらか一本に絞った方が本人にとってもチームにとっても、プラスになるんじゃないかと思う。
投手なら毎年2ケタ勝てる投手になってほしい。昨年は11勝を挙げた。ローテーションの中心として、常に2ケタ勝てるようにやっていってほしいですね。野手なら主力として、最低でも120試合はゲームに出られる選手になってもらいたい。
投手と野手、どちらかに絞るとしたら投手がいいと思う。大谷君は、高校時代に160キロを投げて注目を集めた。160キロというのは限られた人にしか投げられないんだから、それを生かしてね。
彼はメジャーに行きたいと考えていると思うけれど、メジャーが魅力を感じるのは、打者としてではなく投手の方でしょう。大谷君のボールはそれくらい素晴らしいですよ。