理想の打順を「1番から9番までイチロー」と答えた野村監督
「王になあ、みんな持ってかれた。本塁打、打点でしょ。オレの記録なくなっちゃった」
通算打撃成績を、5歳下の後輩・王に抜かれた。そのことを話すのに悔しそうではなかった。しょうがないよと、あきらめた口調で反発心などみじんも感じさせなかった。打撃成績に関しては、あきらめのつくほど数字の差は大きく、敗北感をおぼえるレベルにはなかったようだった。
王貞治の人間性や真摯な態度に好感を持っていた。長嶋茂雄とは違うタイプだった。巨人を去った野球人というので、監督としてライバル心を持つ相手でもなかった。
むしろ、監督としてはオレのほうが上と、それは実績も証明していることで、この優越感が打撃成績の敗北感を凌駕していたと思う。それは、野球観の違いを聞いたとき、はっきり知らされた。
王監督は理想のオーダーを聞かれて言った。
「そりゃあ、全員ホームランバッターがいいよ。1番から9番まで」
ホームランの魅力については、「一打で1点でしょ。効率いいよね。ホームラン打ってベース一周するでしょ。相手、だれも動けないんだよね。あれはいい気分だったね」と、素直に朗らかに言う。