緊急事態宣言拡大でも有観客 スポーツ界の露骨な商業主義
「(五輪開催に)多少の迷いがあったら全てに影響してくる。多くの人に希望を与えられるよう、最後まで頑張っていきたい」
東京五輪組織委の森喜朗会長(83)は12日、職員に向けての年頭挨拶でこう言った。
感染者は累計30万人を超え、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言は、11都府県に拡大した。
それでも森会長は立場上、「五輪に向けて頑張る」といわざるを得ないのだろうが、今のスポーツ界は異常だ。
■ラグビー、大相撲、マラソン…有観客で開催
11日の大学ラグビー選手権決勝(天理大対早大)が行われた国立競技場には大勢の観客がいた。緊急事態宣言下でのイベントは、最大5000人か収容率50%以下の少ない方に制限する決まりがある。しかし、政府は販売済みチケットには適用されないとの見解を出し、約1万1000人もが入場した。
初場所前に5人の感染者が出た大相撲(国技館)は、コロナ関連だけでも65人が休場しながら客を入れて開催している。
31日号砲の大阪国際女子マラソンは無観客と、沿道応援自粛を求めて開催予定。日本高野連は13日、今年の選抜大会(3月19日開幕・甲子園)を有観客で開催する準備を進めることを決めた。
「この流れは解せません」と、スポーツ愛好家の菅野宏三氏(ビジネス評論家)が呆れ顔で言う。
「テレビでは連日、医師らが『すでに医療崩壊が始まっている、昨年の宣言発令時以上の厳しい自粛が必要』と、必死に訴えている。『イベント規制が緩い』と苦言を呈する専門家もいる。みなが我慢を強いられているときに、スポーツは観客を入れる。ベッドを増やせ、増やせと言われている医療現場の人はどう思うか。競技場の観客を見れば、外出を我慢している人の緊張感は緩みますよ」
■医療現場を無視
今は発熱してもPCR検査を受けられず、医者にも診てもらえない。医療現場では命の選別が行われている。異常事態だからこそ、コロナ対策分科会の尾身茂会長は13日の記者会見で、「今、最もやるべきことは昼夜を問わず、外出をなるべく控えてもらうということだ」と述べたのではないか。
前出の菅野氏が続ける。
「大会を行うのであれば全て無観客にするべきです。販売された入場券は払い戻せばいい。感染者を減らすことを国民に訴えている国は、若者や夜の店ばかりを悪者にしているが、言行不一致です。考えてみれば、大学ラグビー決勝の舞台は東京五輪のメイン会場となる国立だった。五輪はコロナ禍で開催が疑問視されている。五輪本番のモデルケースとなるだけに、国はこの試合だけは絶対に無観客にはしたくなかったのではないか。五輪が中止になれば経済損失は5兆~8兆円にのぼるという試算もありますから」