W杯で2ゴール“元祖ワンダーボーイ”稲本潤一は5部に「人工芝での夜練習にも慣れてきた」
稲本潤一(関東リーグ1部・南葛SC/42歳)
2002年に日本と韓国でアジア初のW杯が共同開催された(5月31日~6月30日)。フランス人監督トルシエに率いられた日本代表は、史上初のグループリーグ突破。決勝トーナメント一回戦でトルコに惜敗したとはいえ、母国開催W杯で大いに面目を施した。あれから20年。日本を熱狂の渦に巻き込んだトルシエジャパンの面々は今どこで何をやっているのか? カタールW杯に臨む森保ジャパンについて何を思うのか?
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「あの時は若かったし、勢いがあった。勢いしかなかったですね(笑い)」
20年前の自分自身を懐かしそうに振り返るのは、2002年日韓W杯のベルギー戦とロシア戦で連続ゴールを挙げた「元祖ワンダーボーイ」稲本潤一(南葛SC)だ。当時所属していた欧州を代表するトップクラブ・アーセナルでは試合に出られなかったが、高度な国際経験を遺憾なく発揮し、日本サッカーの顔になった。
そして42歳になった今、彼は関東サッカーリーグ1部(5部相当)の南葛SCに移籍。5月14日の浦安戦で新天地初スタメンを飾ったところだ。
「ケガで出遅れましたがやっとコンディションも上がってきた。人工芝の夜練にも慣れましたよ」と前向きに話すベテランはボールを蹴れる日常を心底、楽しんでいる。
今でも現役は小野伸二と2人だけ
日韓W杯の日本代表メンバー23人のうち、今も現役を続行しているのは、稲本と小野伸二(札幌)の2人だけ。同じ1979年生まれの黄金世代を見渡しても遠藤保仁(磐田)、本山雅志(クランタン・ユナイテッド)など数えるほどしかいない。
「そりゃあ~20年経ってますからね」と稲本も笑ったが、年々、強度の上がる近代サッカーに適応しつつ、プロ生活を長く続けるのは並大抵のことではない。
「やっぱりプレーするのが好きなんですよね。J1から数えて5部のリーグでやってるのはそれしかない。カテゴリー関係なしに仲間とボールを蹴るのはすごく楽しいし、公式戦で喜怒哀楽を表現できるのってすごく幸せなことだと思う。それが自分の原動力になってますね」と稲本は年齢を重ねてサッカーへの純粋な気持ちが一層、強まったことを明かす。
■5部リーグからJリーグ入りを目指す
とはいえ、今もJ1で戦う小野や遠藤とは違い、今の舞台は関東リーグ1部。練習や試合は人工芝。ボールコントロール1つ取っても思うようにならないし、審判の判定も不安定だ。かつて世界最高峰の英プレミアリーグでプレーし、3度のW杯に参戦した稲本にしてみれば、戸惑いも少なくないだろう。
「もちろんプロである以上、高いレベルでやるべきだはと思うけど、求められてる場所に来させてもらえるのは本当に有難いこと。南葛は関東1部の中では環境的にも恵まれてますし、Jを目指すという理念もある。この年齢で雇ってくれるところはなかなかないですし、必死にしがみついてやってます」と彼は真摯な姿勢を持ち続けている。
40代ならではのプレーを模索中
環境と同時に年齢との戦いも強いられている 誰しも歳を重ねればケガがちになり、走力や心肺機能は低下する。遠藤も「20代前半の頃と比べたら疲労回復力とかは間違いなく落ちてる。その落ちた部分も含めて『自分は40代なんだ』って思いながら、年相応に戦ってる」と語っていたが、稲本にも似たような割り切りがあるのだろう。
「僕はヤットみたいに技術がそこまで高くないと思っているので、ある程度、強度を出していかないといけない。ボールを奪うところやフィジカル面の強みを発揮できないといけないんです。だからこそ、コンディション調整が重要になってきます。森一哉監督を筆頭に南葛には僕も知ってるスタッフが多いので、こっちのペースでやらせてもらえている。ホントに感謝してます」と稲本は周囲の助けを借りながら、40代らしい自分を必死に模索しているようだ。
南葛に赴いた以上、もちろん今季の目標はJFL昇格だが、5試合終了時点ではまだ勝ちがなく、10チーム中9位。今日28日にも目下首位を走る東京ユナイテッドとのゲームがあるが、残り13試合で一気にペースアップしなければ、JFL昇格には手が届かない。
「関東1部を戦っていて感じるのは<対南葛>という相手のモチベーションの高さ。僕たちのサッカーを消してくるような戦術を取るチームが多いですし、ほんのちょっとの差で明暗が分かれている。今は勝ててないですけど、まだ13試合残っているし、1つ結果が出れば多少は自信がついてくるはず。声掛け1つでチームの雰囲気がガラッとか変わったりするので、そういうところでも自分がもっと貢献していければいいと思ってます」
「ここ一番のタイミング爆発力を発揮したい」
困った時ほどベテランは頼りになるもの。稲本のような「元祖ワンダーボーイ」ならなおさらだ。
20年前のW杯でゴールラッシュを見せたように、ここ一番の爆発力を関東1部でも発揮してくれれば、チームの流れは必ず変わる。若かりし日を思い出し、一気に駆け抜けることが肝要だ。
「今は体がそこまで動かない分、勢いが若干減ってはいますけど(苦笑)、大事なのはどのタイミングでそれを出すかですね。点を取れるように頑張りますよ」
彼の野心あふれる表情には、イキイキと躍動した20年前を彷彿させるものがあった。
数少ない日韓W杯メンバーの生き残りが、2022年カタールW杯イヤーに何を見せてくれるのか。ここからのいぶし銀の働きに期待だ。