若き日の千代大海も口にした宿命「スタミナを考えると四つ相撲も必要かも」
押し相撲は動き続けないと勝機がない
押し相撲は攻撃の威力とバランスの崩れやすさが背中合わせで、大勝ちを続けるのが難しいことはよく知られている。
貴景勝は一気に突進せず、頭で何度も当たって小刻みに出る相撲で安定感を補うが、首の故障でそれが難しくなり、押せない時の策も稽古してきたことが、小手投げやすくい投げに表れた。
ただ、前半は張り手の応酬など長い相撲もあり、スタミナを心配していたら11日目に琴ノ若、12日目も霧馬山に負けた。突き押しや出足が鈍く見え、解説の舞の海さんも「馬力が落ちてきた」と指摘した。13日目からよく立ち直ったが、1敗で走り、せめて2敗の優勝なら評価はさらに上がっただろう。これまでも後半の勝率は良くない。
押し相撲は立ち合いから全力で向かっていく。まわしをつかむ四つ相撲は、てこの原理で相手を崩せることがあり、一呼吸置くこともできるが、押し相撲は自分の力で攻め、動き続けないと勝機がない。体力を使う。
稽古でも先に息が上がり、だんだん分が悪くなるので、北勝海は稽古の記事に勝敗を書かれるのを嫌がった。それでも必死で番数を重ねて持久力を高め、フラフラになって最後に体を預ける感覚などを会得した。
千代大海は突き押しを通しつつ、取られたまわしを切ることができたし、投げもあったが、北勝海の域まではいかなかった。
貴景勝は26歳。かつて千代大海が口にした年齢にさしかかる。昨年九州場所に続き、対戦相手が関脇以下ばかりで喫した3敗。押し相撲の宿命といかに対峙して、これを2敗、1敗……と減らしていくか。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。