「ダル先生」に侍J首脳陣もNPBもおんぶに抱っこ “前のめり”栗山監督とは真逆の存在感
コーチも「先生」
そんなダルに首脳陣も頭が上がらない。栗山監督はこの日、「ダルビッシュだけに限らない」と前置きしたうえで、「投手、野手、すべての選手が、会話の中で違う考え方を聞くことでプラスになっていくチームだと思っている。そういうのがそれぞれいろいろなところで見られたのがよかった」と言えば、厚沢投手コーチは「吉井(コーチ)さんと僕にとって、ダルビッシュは『先生』。お互い、信頼関係の中でやっている。いちいち報告する必要はない。選手が欲しい情報なら教えてやってほしい」と全幅の信頼を置いている。
投手が本番間近のこの時期に新たな変化球にチャレンジすることは、リスクも伴う。しかも、ダルの場合は握り方だけでなく、腕の振りやリリースポイントも含めて細かくレクチャーしている。それでも首脳陣はダルビッシュに指導を一任。異例ともいえる環境がプラスに作用しているようなのだ。
NPBもダルには感謝しきりだという。
大谷(エンゼルス)ら4人のメジャーリーガーが宮崎合宿の不参加を余儀なくされた。各選手がWBCに参加する際に加入する保険の規定により、メジャーリーガーはWBC管轄となる3月6日の阪神との強化試合まで実戦に出ることができないが、ダルビッシュは率先して合宿に参加。その存在感は際立っていた。
日本代表の注目度を高める上で大いに貢献しているダルに対しては、NPBも配慮をしている。
ダルは1度目のライブBPに登板した21日夜、自身のインターネットラジオ番組で、「今日は風が強く、寒かった。こういうときは(ライブBPを)飛ばしたりするが、発表みたいなのをたぶんしちゃってたんで、投げるしかないかなと。今日できる限りのことをしました」と話した。
この発言もあってか、NPBは26日に行われた2度目のライブBPの際は、気候面などを考慮して正式に登板が決まるまでは、公にしないことにしたという。
■栗山監督とは逆
代表内での存在がますます大きくなる中、ダルビッシュはかねてWBCに臨むにあたり、「(日本は)気負い過ぎというか、戦争に行くわけではない。『負けたら日本に帰れない』というマインドで行ってほしくない。気負う必要はない」と話すなど、肩の力を抜くことの大切さを強調している。この日も、「みんな短期間で仲良くなれている。このままの雰囲気で行けば、本番も大丈夫なんじゃないかなと思っています。凄くピリピリさせるやり方もあって、どっちが正解とかはないですし、結果につながるかは別として、野球を楽しむ上ではこういう雰囲気がいいし、僕は好きです」としたうえで、「いまの日本は明るい雰囲気でやることが必要だと思う」と言い切った。
その点、栗山監督は1月下旬、30人の予備登録選手の発表会見で「日本野球の魂」などと4度も「魂」という言葉を使って、精神論に偏りがちというか、常に前のめりな部分は否めない。代表内の一部では、チームの引き締めを求める声も出ているようだが、今のところは泰然自若のメジャーリーガーの存在が、肩に力が入ってガチガチになりがちな日本代表の雰囲気をうまく和ませているようである。