阪神岡田監督の人望が厚いワケ 後輩のゴルフクラブをジャイアント馬場におねだり
後輩思いのエピソード
そんな岡田監督が、金子のためにひと肌脱いだことがある。
「ジャイアント馬場さんにゴルフクラブをもらってくれんかな。連絡ルートは持っとるやろ」
岡田監督からそう頼まれたものの、私は突然のことで状況がのみ込めない。詳しく聞いてみると、次のような事情だった。
「金子がなぁ。かわいそうなんや。あの体格やろ。息抜きのゴルフをしても、クラブが短くて思うように振れんのや。気分転換するはずが、リフレッシュにもならん。逆にストレスがたまるばかりよ」
確かに馬場さんはゴルフ好き。岡田監督はさらに続ける。
「以前、馬場さんと会って話をした時に『そういうことなら、いつでも言ってこい。プレゼントするよ』と言ってくれてな。馬場さんの自宅には長尺の特注クラブが10セット以上もあるらしい。そのうちの1つぐらい、いつでもやるよとな」
話はスムーズに進み、約束通り馬場さんの愛用クラブが岡田家に届いた。さっそく陽子夫人が礼状を書いて送り、どんな感触なのかと興味津々の岡田監督は、金子に渡す前に奈良県内の名門コースで試し打ちだ。
「アカンわ。長いし重いし。ゴルフにならん」と苦笑いだったが、金子は水を得た魚。巨体を揺すって気分よく豪快にスイングし、ストレスを発散させて充実した冬季練習に取り組めた。
「何だ!? それは」
馬場さんの特注クラブはいや応なく周囲の視線を集める。この後輩思いのエピソードはチーム内で知られ、岡田監督の人望はますます厚くなった。
さて、前出の強打者候補生たちは結局、レギュラー定着もままならなかった。岡田監督が大山、佐藤輝を球界を代表する長距離砲に育て上げた時、18年ぶりの「アレ」とともに猛虎の黄金時代がやって来る。
(長浜喜一/スポーツライター)