元日本ハム南竜次さん ブラック企業勤めの苦い経験を糧に起業、モットーは「人は宝」
6年勤めてもバイト時代に届かない月収、劣悪な労働環境
出世に伴い、仕事量や責任が激増した。しかし、給料面に物足りなさを感じる自分がいた。アルバイト時代は月収70万円を超える月もあったが、正社員1年目は月収35万円。2、3年目の名古屋支店長時代は月収40万円、エリア長に昇進しても、月収60万円ほどだった。
南氏は当時の待遇について、「まったく従業員を大切にしない会社だった」と渋い顔をしながらこう話す。
「社長が酷かった。たとえば、売り上げ目標を達成したらボーナスを出す、なんて話が土壇場で『やっぱり無理』と反故にされたこともあった。しかも、労働時間がめちゃくちゃで、休日はほとんどなかった。これはアカン、未来がないぞと。怒りや、やるせなさでいっぱいでした。そんな時期に思わぬ話が飛び込んできたんです」
支店長、エリア長として出席した会議には、各拠点の長が集う。そこで親しくなった同僚から独立を勧められた。その同僚はすでに独立し、エアコン設置事業の会社を立ち上げていた。
「恩人ですよ。僕よりも5歳ほど年上の彼は常々、『人材は宝』と話していて、すごく尊敬していました。彼が会社を辞めて独立した後も気に掛けてくれて、『エアコンはめっちゃ儲かるよ』と、事業の仕組みを教えてくれた。この方のアドバイスがあって、起業を決意しました」
■「人は宝」の言葉を胸に部下4人を引き連れ独立&起業
行動に移すまで時間はかからなかった。エリア長として各従業員の働きぶりや性格は身近で見ている。信頼のできる部下を個別に呼び出し、勧誘。4人の従業員を引き連れて7年勤めた会社を退職し、06年、「株式会社AIRECサービス」を立ち上げた。社名の由来はエアコン、リペア、電気(エレクトリシティー)、クリーニングの頭文字からだ。
「主な業務内容は家電量販店のエディオンさんの下請けです。エディオンさんで売れた製品の設置工事をしています。エアコンや照明、テレビ、ウォシュレット、インターホンなど、取り付け工事が必要なもの全般。冷蔵庫など、運んで置くだけの製品も担当します。独立を勧めてくれた恩人の紹介で、下請けに加わることができました」
「人材は宝」。この言葉を胸に、まず最初に全ての従業員がきちんと稼げるよう知恵を絞った。
「付いてきてくれた4人には、それぞれ個人事業主になってもらいました。僕が家電量販店のエディオンさんから受注した仕事を、彼らに委託する。僕の取り分は10%で、彼らは90%と決めた。僕は社員時代に安くコキ使われてきたので、従業員も儲かるようにしたい。だからこの割合です」
たとえば、エディオンから2万円のエアコン設置案件を受けたとする。南氏の取り分は2000円で、残りの1万8000円が委託先の実入りになる。元受けと委託先の取り分が50%ー50%という契約が当たり前とされる業界で、異例の配分とも言える。
自分の取り分を極端に削った南氏はさらに、委託先を増やすため、驚きの仕組みを編み出した。
■「安い給料でコキ使われた」から編み出した独自の雇用体系
「僕の委託先が育てた『見習い』が独立し、新たに僕の委託先になったら、以降、その『見習い』の売り上げの5%を、育てた委託先へ支払うことにした。このお金を『育成費』と名付けました。見習い期間中は委託先が日当を支払っているし、一人前にするにはかなりの労力が必要。これを補填するためです。ただ、独立した『見習い』がミスをしたら、委託先にフォローしてもらう。そうすることで、委託先は『見習い』を一人前に育てよう、確かな技術を覚えさせようと熱心に教育しますよね」
中には、20人の見習いを独立させたという委託先もいるという。南氏はその委託先に毎年1500万円ほどの「育成費」を支払っている。
この仕組みが奏功し、多くの委託先が率先して年1人のペースで見習いを独立させているそうだ。
「頑張った分だけ稼げる」と南氏が言うシステムは話題を呼び、就職希望者は後を絶たない。
この雇用形態を真似する企業も出てきているという。