「自分より小さかったはずの富士錦関が…」入門前の富士桜もだまされた新弟子勧誘あの手この手
体験入門を取り入れる部屋も
体格の不安だけでなく、相撲界の厳しさに尻込みする若者を、あの手この手で勧誘した逸話も、枚挙にいとまがない。高度成長期には「飛行機に乗せてやる」「東京見物に行くか」などが常套句だった。親の方が、家庭で面倒を見られない子どもを相撲部屋へ預けた例も少なくない。
だが、甘いことを言って入門させても脱走されては意味がない。やがて体験入門を取り入れる部屋も出てきた。部屋を35年続けた元大関琴風の尾車親方は「逃げられて行方不明になったりすれば、こちらの責任。むしろ入門させるよりエネルギーが要る」と言っていた。
いくらかの支度金を出す場合もあるが、入門した者がすぐ行方をくらまして金が戻らない例が、複数の部屋で続いたことがある。調べたら背後に同じ人物がいた。「被害」に遭った親方が「新弟子詐欺だよ。入門者が減って足元を見られてるんだ」と怒ったのが20年近く前。情勢はさらに厳しくなった。果たして体格基準撤廃の効果は──。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。