《松中信彦の巻》死球覚悟でないと抑えられなかった平成の三冠王
松中信彦
いつの試合かは覚えていませんが、おそらく西武戦だったと思います。松中信彦(50)が打席に立った時、信じられないものを見たことがあります。それは捕手の位置。
モニターに映るセンターからの映像を見ると、捕手の姿がバッターボックスの松中の後ろにすっぽり隠れていた。
「え? ぶつけるってこと?」
僕は驚きましたが、あれはバッテリーとしては苦肉の策だったのでしょう。外角に投げたら左中間のスタンドに放り込まれる。かといって、インコースのさばきも天才的。あれは誰にも真似できません。そこで、絶対に甘いコースにならないよう、捕手は死球覚悟でミットを構えたのではないか。
それだけ松中は他球団から恐れられていました。2004年は打率.358、44本塁打、120打点で1986年の落合博満さん以来となる三冠王。
プロ入り後は決して順風満帆だったわけではありません。1996年ドラフトは1位が井口資仁、2位が松中、3位が柴原洋。当時、打撃投手だった僕は先輩スタッフに「誰が一番いい打者だと思う?」と聞かれ、「すぐに成績を残せそうなのは柴原ですかねえ」と答えました。すると先輩も「ああ、おまえもそう思うか」とうなずいている。