新選組の無名隊士を描いた短編集を上梓 小松エメル氏に聞く
それが蟻通勘吾、酒井兵庫、近藤周平ら。沖田や土方と違って、彼ら無名隊士の記録はあまり残っていない。
「新選組は近藤勇が多摩で開いていた天然理心流の道場出身者が多いので、多摩の史料館などに隊士や支援者の日記や書簡が残されているんです。そこに隊士の記録や役職が書かれているのを基に話を膨らませました。例えば、蟻通という珍しい姓の隊士が2人いて、従兄弟と書いてある史料があったんです。それで、行方不明になった従兄が実は長州の間者で、脱走したと疑われていたが、従弟の勘吾の夢に出て、何かを告げようとするという話にしてみました」
また、寄越人という役職があることにも目を留めた。
「切腹した隊士を葬るのを見届ける役職なんです。そういうものがあるのは、それが必要な状況があったんだろうと。新選組の闇の部分。そこに興味がありました」
新選組は隊規に触れて切腹させられた隊士が多い。著者は、寄越人に任じられた酒井兵庫を取り上げて、その苦悩や新選組内部に渦巻く不信感を描き出している。