著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ダークナンバー」長沢樹著

公開日: 更新日:

 長沢樹は2011年に「消失グラデーション」で横溝正史ミステリ大賞を受賞してデビューした作家で、その著作はまだ10作に満たないが、これまでの長沢樹作品に接してきた読者が本書を読むと驚く。えっ、これが本当に長沢樹の作品なの? と思うことは必至。うれしい驚きとはこういうことを言う。

 なんと、ど真ん中の警察小説である。物語の中心にあるのは、東京都下の連続放火事件と、埼玉の連続路上強盗致死傷事件。そのつながりに気づくのは、分析官の渡瀬敦子。根回しの出来ない性格なので、やや独走気味の捜査をしては叱責をうける。しかし改めない。静かで頑固な美女だ。このヒロインが捜査陣の中心にいるが、それだけなら、特に驚くことでもない。ちょっと読ませる警察小説だよね、というレベルで終わっていただろう。

 本書を忘れがたいものにしているのは、この物語のもう一人の主役、土方玲衣だ。このヒロインの圧倒的な個性に、もうクラクラである。テレビ局の版権担当デスクだが、入社したときから「東京キー局史上初の生え抜き女性社長」を目指しているほど、パワフルなヒロインで、いやはや素晴らしい。土方玲衣の部下羽生孝之と、渡瀬敦子の視点はあるのに、土方玲衣の視点をあえて書かない節度もよし。だから余計にこのヒロイン像がくっきりと立ち上がる。つまり本書は、警察小説の枠を超えた迫力満点の「報道×警察小説」なのである。傑作だ。(早川書房 1800円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  2. 2

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  3. 3

    だから桑田真澄さんは伝説的な存在だった。PL学園の野球部員は授業中に寝るはずなのに…

  4. 4

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  5. 5

    「ニュース7」畠山衣美アナに既婚者"略奪不倫"報道…NHKはなぜ不倫スキャンダルが多いのか

  1. 6

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 7

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 8

    ドジャース大谷 今季中の投手復帰は「幻」の気配…ブルペン調整が遅々として進まない本当の理由

  4. 9

    打撃絶不調・坂本勇人を「魚雷バット」が救う? 恩師の巨人元打撃コーチが重症度、治療法を指摘

  5. 10

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した