最新コミックエッセー本特集
「猫が教えてくれたこと」原作・かばきみなこ、漫画・みつき和美
今、書店で「コミックエッセー」が若者に人気だ。文字と絵と、そしてコマ割りで描き出される漫画は、文章だけで読ませるエッセーとは異なり、独特の空気感と心情描写を味わえる。そんなコミックエッセーの話題の新刊を5冊ご紹介。
野良猫の保護活動を行い、子猫の育て方を教えている“ねこ生活アドバイザー”の原作で、実話に基づく6つの物語。病気や障害をもつ猫たちをあきらめずに辛抱強く支えて、天寿を全うさせた人々を描く。ただ単純に、優しい人間が猫を救う感動のエピソードではない。書名のとおり、猫が人間に与えてくれるものがいかに大きいか気づかされる構成になっている。
妻や子供に愛や感謝の気持ちを言葉にできない、不器用な老年男性と2匹の猫の物語「兄弟猫のダイとゴン」は、胸の奥まで痛くなる。悪徳ブリーダーによって長期間、子猫を産まされ続けた純血種の猫が、引き取られてつかの間の自由を味わう物語「屋根の上のポポ」には、猫の尊厳を改めて考えさせられる。
ただし、この本は老猫の飼い主にはおすすめしがたい。猫の最期を描いた話が多いからだ。読み手が愛猫の最期を想像してしまうと、涙が止まらなくなるので要注意。
(アスコム 1000円+税)
「やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方」わたなべぽん著
始まりは炊飯器。壊れたときに仕方なく土鍋で炊いてみたところ、「炊飯器がなくてもまったく支障がない」と気づく。しかも土鍋で炊いたほうが断然おいしいという発見も。そこから生活全般を見直していった主婦漫画家のコミックエッセー。
第1章では主に家電製品からの卒業である。テレビの「ながら見」や、つけっぱなしをやめることで時間の使い方が変わり、夜更かしもしなくなったという。掃除機をやめてフロアワイパーにすることで、部屋も片付いて、広々した雰囲気に。省エネだの節約だのではなく、心が豊かになる成功体験を重ねていったようだ。
「ながらスマホ」もやめる著者。これは夫から「ネットの見すぎで性格がキツくなった」と指摘されたから。
確かに、悪意と罵詈雑言しかない掲示板や悩み相談ばかり見ていると、性格も歪みそうだ。
微妙な友達と距離を置く勇気も身に付け、自信をもち、最終的には心が楽になったという話だ。
(幻冬舎 1000円+税)
「ダンナさまは幽霊」原作・流光七奈、漫画・宮咲ひろ美
歯科医で音楽が大好きだった夫が8年のがん闘病生活を経て、50歳で亡くなった。ところが、その夫は今も一緒に暮らしている。なぜなら妻は“視える”体質だから……。
一見、信じがたいのだが、幼い頃から幽霊が視えてしまう特異体質の女性が「最愛のパートナーを失う」ことの意味をつづった物語には、不思議な説得力と温かみがある。
死んだ夫とは普通に会話をして、食事をとり、一緒に寝る。触れられないだけで、日常生活は生前とほぼ変わらず。幽霊の特性としては、瞬間移動はできない、お経は苦手、心の中で思うだけでは伝わらず、声に出さないと聞こえないなど、どこか滑稽で生ぐさい。願い事をされても困るし、神社の中には入っていけないなど、幽霊にもいろいろと制約があるという。
信じるか信じないかは読者に委ねるが、愛する伴侶を失った人の心に、そっと寄り添ってくれる内容であることは確かだ。
(イースト・プレス 1000円+税)
「ナイフみたいにとがってら 反抗期男子観察日記2」月野まる著
高校2年生の長男と、中学3年生の次男の反抗期を描いたコミックエッセー。前作では主にキレやすいドS気質の長男の反抗期をメインに描いていたが、続編の今作ではおとなしかった次男の受験期と反抗期、そして長男の目を見張る成長をつづっている。時折、幼少期を思い出し、涙ぐむ著者。反抗期男子2人の騒々しい日常で、時には甘く目を細め、注意深く耳を澄まし、そして言葉を選ぶ「子育ての苦労と楽しみ」が共感を呼んでいる。
男子の子育ての例えが全自動掃除機というのも笑える。畳の部屋まで水をまいたり、狭いところで出られなくなったりする掃除機をまるで我が子たちのようだと評する。決してこちらの思惑通りに動かないが、最後は充電器に戻ってくるあたりが「バカなんだけどいとおしい男子」に近いのだとか。父親の存在はほぼナシ。1話だけ登場するが、その存在感の薄さが逆にリアリティーを増している。
(KADOKAWA 1000円+税)
「酔うと化け物になる父がつらい」菊池真理子著
過酷な現実をふんわりと優しいタッチの漫画で描くことで、強烈さをほんの少し和らげる効果はある。それにしても、この著者の半生はつらい。つらすぎる。よくぞ描き上げたと思う。その勇気と心の葛藤に拍手を送りたい。彼女が苦しんだ分だけ幸せになってほしいと願ってやまない作品だ。
父親はアルコール依存症で、ほぼ酔っぱらい状態。母親は政党の支持母体にもなっている新興宗教を妄信し、現実から逃げている。そんな両親のもとで育った少女が自分の人生を取り戻すまでの孤独な闘いを描いている。
しかも、母は自殺。父と同様の酒乱で、暴力をふるう恋人にも悩まされる著者。やがて父は末期がんに侵され、多額の借金も発覚。この世に神や仏はいないのかと思うほどの絶望。それでも著者は家族を捨てなかった。
心温まる物語とも感動の物語とも言えないし、気安く言ってはいけない。ただし、著者の壮絶な半生は必ず誰かの救いとなるはずだと確信できる。
(秋田書店 900円+税)