ハラスメント本特集
「壊れる男たち」金子雅臣著
日大アメフト部の例を出すまでもなく、最近、堰(せき)を切ったかのようにあちらこちらでパワハラやセクハラが発覚している。世間の風潮を見るにつけ、どこからがアウトで危険な行為になるのか、不安に思ったことはないだろうか。そこで今回は、被害者にも加害者にもなりたくないと望む、アナタのためのハラスメント本5冊をご紹介!
男性たちにとってセクハラの類いのことは、日常的に男女の間で繰り返されるある種のゲームのように思っているフシがある。それは、かつてセクハラの原因は女性にあり、「女性自らが招いた」とした古い認識をそのまま継承しているため。よってセクハラ男は相変わらず女性の落ち度を言い立てれば事が済むと考えているという。
女性部下を車で暗闇に連れていき関係を迫ったことを訴えられた43歳の男性は「本当に嫌なら断るはずだ」、派遣社員に正社員にしてやると言いつつ「ホテルに行こう」と誘った58歳男性の「いや、意気投合したんだ」などのエクスキューズを紹介しながら、セクハラをする男たちの意識構造をひもといていく。
現在も労働相談に従事する著者によるノンフィクション。
(岩波書店 820円+税)
「それ、パワハラです」笹山尚人著
上司から「頭、おかしいんじゃない」などの暴言を浴びせられる、1年2カ月の間に8回も異動させられる、本来の仕事ではないトイレ掃除を連日させられる……。
これらのような理不尽な状況に追い詰められたとき、いったいどうやって窮地から脱するか。
数多くの労働事件に携わってきた弁護士が、実際に起きた事例でどう対処したかの具体策を紹介したのがこの本だ。
著者によれば、被害者になった際に武器となるのは、「人格権の侵害」と企業側の「安全配慮義務違反」という法的根拠。さらに記録や音声などの証拠が、労働者を守るための強い味方になる。長時間労働や採用に関する約束不履行などのケースも取り上げている。泣き寝入りしないための心強い具体策が並んでいるので、悩んでいる人はぜひご一読を。
(光文社 740円+税)
「上司の『いじり』が許せない」中野円佳著
愛情の裏返しだと言い訳して、毒のある言葉で特定の相手を翻弄する。加害者側は「相手も笑っているから大丈夫」といって、「いじり」がハラスメントであることを自覚していない事例も多い。
本書は、実例を紹介しながら、いじられる側が精神的に深いダメージを受ける「いじり」がはびこる実態と構造に迫る。
「いじり」のタイプには、「デブ」などという「容姿・体形いじり」、服装について細かく指摘する「ファッションいじり」、「童貞」などのセクシュアルな私的事柄をあげつらう「プライベートいじり」、「女子力がない」など性役割を強要する「性役割いじり」があるという。自殺した電通の女子社員も同様のいじりを受けており、いじりという軽い言葉に隠された、深刻な影響を指摘している。
(講談社 800円+税)
「パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く」野原蓉子著
企業にとって、いまやハラスメント問題は経営を揺るがす緊急の課題。その場限りの消極的対応をしていると、企業の存続にかかわる危機をもたらしかねない。
本書は、そんな昨今の状況を背景に、企業や官公庁の相談窓口でカウンセラー業務に従事してきた著者が、ハラスメントに関する相談を受けた際にどのような対応をすべきかを説いた本。問題解決できた例から、対応を誤った例、改善例など、具体的な対話方法も紹介しつつ説明している。
著者によれば、対応がうまくいくかどうかは「初動」で決まる。ここを誤ると、問題はこじれ、裁判に発展したり、ネットに情報が拡散するなどして大炎上する。さらに、そもそものハラスメント発生を防ぐために有効な社員研修例も紹介。
(経団連出版 1300円+税)
「職場のハラスメント」大和田敢太著
職場のいじめ・嫌がらせ問題は、個人間のトラブルとして当事者間における解決が試みられる傾向にある。その結果、被害者側にも対応が求められたり、いじめ対策が個人の心がけや努力の問題にすりかわってしまうこともある。しかし、職場のいじめ問題は個人レベルのトラブルとして片づけられるべきものではなく、社会的な問題(ハラスメント)として捉えられ、社会的ルールによって規制されなければならない。
本書は、判例をもとに職場のいじめをさまざまなハラスメントに分類し、解説したテキスト。
過重なノルマによって自殺した銀行員の例など職場のハラスメントの現状を解説しながら、被害者保護や救済、さらに防止・規制のあり方にも触れた労使ともに必読の書。
(中央公論新社 860円+税)