「戦前の怪談」田中貢太郎著

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 田中貢太郎は大正から戦前昭和に活躍した作家で、なにより「日本怪談全集」「支那怪談全集」をはじめとする実話怪談の書き手・アンソロジストとして有名。本書は、著者が記した怪談の中から24話を精選したもの。

 冒頭の「虫採り」は、不忍池近くの草むらで、藍色の服に針金が引っかかって困っている少女を貧乏画家が助けてやるところから始まる。その後青白い着物を着た芸妓が画家の前に現れ、いますぐ汽車に乗って遠くへ行くようにいわれる。その通りに夜汽車に乗って東京を離れると、その日関東大震災があり、画家は命拾いをする。東京へ戻り不忍池へ行くと、白蓮の花弁をくわえた藍色の山女がこちらを見ていた。

「蟇の血」は、将来を嘱望された青年が、ある女と出会ったことで怪異の世界に引き込まれる話で、近藤ようこが漫画化したことで知られる。

 まだ自然が豊かに残っていた戦前日本の風景の中でチョウ、蛇、キツネといった異類たちが織りなす恐怖と怪異は、懐かしくも新鮮に感じられる。

(河出書房新社 1800円+税)

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