【危機に立つEU】ますます右傾化しつつある欧州の行方は?
「メルケルと右傾化するドイツ」三好範英著
危機に立つEUが何とか持ちこたえているのはひとえに独メルケル首相の存在感のおかげ。しかし最近では組閣に難渋するほど右派勢力に押され、連立政権による閣内不一致も目立ってきた。読売新聞の外信記者による本書はメルケルの生涯を詳しくたどりながら彼女の政治手腕を分析していく。
牧師の娘として東独に生まれたアンゲラ・カスナー(旧姓)は勤勉な父からプロパガンダに動かされない合理性を徹底して仕込まれたという。長じて物理学者になり、政治とは慎重に距離を置く。
23歳で結婚したが、4年で離婚。おとなしい夫に飽き足りなかったようだ(「メルケル」はこの最初の夫の姓)。ベルリンの壁崩壊直前の時期にも市民運動の熱狂には加わらなかった。野心家だがスタンドプレーを嫌い、勤勉で謙虚で虚飾なし。
難民問題で求心力は下がっているもののメルケルの人間性をドイツ人は信頼している。
逆に言えばメルケルの個人技がEU崩壊の歯止めでもあるわけだ。なおアジアの中でドイツにとって中国こそ最重要。メルケルも日本には特段の関心はないらしい。 (光文社 840円+税)
「欧州ポピュリズム」庄司克宏著
「大衆迎合主義」と訳されるポピュリズム。EUの法制度と政策研究を専門とする著者によれば、ポピュリズムの根底には「無垢の民衆」対「腐敗したエリート」の対立認識があるという。要は反エリート主義で、複雑な次元にわたる政治全体に立ち向かう一貫したポリシーや思想はないわけだ。
もともと欧州の市場統合を目的とする「テクノクラシー」(専門家エリートによる政策管理・運営)から始まったEUだが、経済を超えて欧州統合まで進めるのは至難の業。選挙で選ばれるわけでもないEU議会はエリートが民衆から信頼されることによる「許容のコンセンサス」が頼みの綱なのだが、その信頼が揺らいだのが近年のポピュリズム躍進だ。
仏国民戦線のルペン党首は欧州統合に進むEUをグローバル化勢力の巣窟とし、自分たちを真の愛国者とする分断手法でのし上がった。結局、EU自体の仕組みが構造的にポピュリズムを生み出したのだ。 (筑摩書房 780円+税)
「BREXIT『民衆の反逆』から見る英国のEU離脱」尾上修悟著
ポピュリズムが世界で勢いづいた最大の要因は大国イギリスのEU離脱。トランプ政権の誕生を間接的に助けたとさえいわれるこの大問題を丹念に検証したのが本書だ。
経済学者の著者はイギリス離脱を排外主義の流行ではなく、緊縮経済と労働政策の不備に起因するイギリス並びにEUの統治の失敗の結果とみる。
著者は昨年、EU失速の引き金となったギリシャ危機についての専門書を出版しており、本書でも同じ視点が貫かれている。 (明石書店 2800円+税)