「使ってはいけない集団的自衛権」菊池英博氏

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 時代遅れかつ的外れな外交政策で、近隣国に喧嘩をふっかけては信頼を失う。北東アジアだけでなく国際社会から孤立し、忘れられた国になりつつある日本。いつからこんな状態になったのか。

「すべては安倍政権というか安倍晋三です。憲法改正して、日本を戦争国家にしたいんです。あんな危険な人間が長期政権になっちゃうんだから、諸外国から日本が危険な国だと思われても仕方ない。安倍内閣が強引に閣議決定で集団的自衛権の行使を容認した結果、米軍と自衛隊が軍事行動をともにすることが可能になってしまいました。集団的自衛権を使ってアメリカに軍事協力しても、犠牲になるのは日本です。今まさに国家的な危機に瀕しているので真剣に考えなければいけません」

 本書では、集団的自衛権行使を容認することがどんなに愚かで危険なことか、史実を踏まえて分かりやすく解説。

 ここ数年で安倍政権が行ってきたのは数々の「国難でっち上げ」だ。知性ある人間なら外交の急務とわかる「中国・韓国・北朝鮮との和解」は、見事に真逆の方向へ向かっている。

「韓国との慰安婦問題、中国との尖閣諸島問題、北朝鮮のミサイル実験、すべて日本が先に喧嘩をふっかけているんです。93年に河野談話で決着がついたはずの慰安婦問題は安倍内閣がひっくり返して韓国を怒らせましたし、昨年北朝鮮が襟裳岬沖にミサイルを落としたのも、安倍政権の集団的自衛権行使が引き金。尖閣諸島だけは民主党野田政権時代ですが、中国との間でいさかいが起きると針小棒大に報道させる。安倍政権は『侵略だ、国難だ』と必要以上に騒ぎ、近隣諸国の国民感情を非常に悪くしています」

 そもそも安倍政権が破棄しようとしている憲法9条に関しても、アメリカと戦勝国は絶対にさせないという見解だ。憲法9条と日米同盟は、日本の再軍備を抑える「瓶のふた」であり、北東アジアの平和を保障するもの。著者は同じ敗戦国であるドイツの例を挙げて、日本が今後進むべき道のりの具体策を提案している。

「ドイツでは、基本法で軍事主権がないことを明記しています。国際機関の許可なしに自国の軍隊を国外に動かすことはできませんし、NATOの決定でも軍事行動を拒否できます。実際、イラク戦争のときも派兵を拒否しました。また、ナチスの虐殺行為を反省する戦後教育も徹底していました。フランスやオランダと戦争時の事実関係、歴史認識を合わせています。だから和解できているんです。日本はまず近隣国との和解を優先すべき。米国一辺倒の従属外交ではなく、中韓との和解、北朝鮮との国交樹立を目指すべきなのです」

 著者は経済学者としての観点から、新自由主義の末路、トランプ政権誕生が世界経済に及ぼした影響、習近平の壮大な経済圏構想なども論じている。

 背景にある歴史を顧みつつ、現代国際社会における経済・政治・外交の潮流を俯瞰できるため、いかに日本が忘れられた国となってしまったのかが、よくわかる。

「トランプは外交の作戦もうまいし、ある意味大政治家ですよ。中国や北朝鮮と喧嘩しているように見せて、ちゃんとディール(取引)していますから。アメリカが北朝鮮に経済援助することも裏で決まっているようですし。トランプイズムは世界中に過去三十数年の反省と新しい地殻変動をもたらすでしょう。北東アジアのパワーバランスも刻一刻と変化している今、日本の急務はとにかく安倍政権を辞めさせること。末期は特に危険です。勝手な軍事行動など、変な最後っ屁をやりそうで怖いんですよ」

(KADOKAWA 860円+税)

▽きくち・ひでひろ 1936年生まれ。政治経済学者、日本金融財政研究所所長。東京大学教養学部卒業。東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行。海外で支店長、豪州東京銀行取締役頭取などを歴任。95年から文京女子大学(現・文京学院大学)で教壇に立ち、2007年から現職に。「銀行ビッグバン」「新自由主義の自滅」など著書多数。

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