「こんな家に住んできた」石牟礼道子、角野栄子ほか著
幼い頃に住んでいた深川の家は、最初は小さかったが、父が隣の家、また隣と買い足して渡り廊下でつないだから、子どもの目には迷路のような家だった。
物心ついた頃に母を病気で亡くしたせいか、泣いてばかりで、小岩の家に引っ越してからも、薄暗い中廊下でよく独りで泣いていた。泣きやむのは決まって空想の世界に浸り始めてからだ。いろんな出来事に出合って、最後は親切な人に「あなたはいい子よ」と褒められるところで空想は終わる。そうするといつの間にか気持ちが収まって、父や姉がいる居間に行くのだ。(「角野栄子」)
他、利根川進、リービ英雄ら17人が家の来歴を通して生き方の極意を語る。
(文藝春秋 1600円+税)